おならっぷばーん

You can't fart without changing the balance in the universe.

派遣する側される側の違い

 

今でも実家近くのハロワを通ると、前に書いた自動車組立期間工の勧誘のお兄さんが、寒空のなか、銀色のベンチコートを着て、歩道の手すりに腰かけて手を合わせて縮こまっている姿を見る。

「工場で働かないっすか?」と声をかけられたとき、本音を言うなら「派遣される側ではなく、あなたのように派遣する側として働くにはどうすればいいですか?」と聞きたかった。宗教の勧誘でも、別に宗派とか教義とは救済の内容は何だっていいけど、入ったあと教団内で給与が出るポジションに就くにはどのくらいかかりますか?と尋ねたくなる。

ずっと前に梅田の雑居ビルで登録した派遣会社から、お仕事紹介メールがいまだに届き続ける。
「高時給!茨木の物流倉庫で荷物仕分けのお仕事です」
「急募・引っ越しの補助業務」
「大手ECサイトの工場で梱包・出荷のお手伝い」
といったものだ。

派遣会社には、説明会と面談のたった2回しか訪問しなかった。所内は凄惨を極めていた。日払い・週払い賃金の支払いを求めるホームレス然とした中年男たちが、歯医者で治療を待つ患者のように暗い顔をして座っている。

所内で働くのは3人。2人の事務員、1人の社員だ。2人の事務員は髪を一つ結びにした無個性なアラサーOLで、ひとりはオフィスデスクの一番下の深型のひきだしを開けっ放しにして、そこから労働者に支給する給与を1枚ずつ、1円ずつ、指サックをはめた手で抜き出し、延々と数える作業に従事している。もうひとりは、患者を呼び出して本人確認する受付係だ。そう、ここは金の欠乏という病気にたいして、その場しのぎの薬を施す現代的なクリニックであった。

唯一の医者らしい紺スーツの男が、面談予定時刻を10分遅れてやってくる。180cmの身長で、分厚い堂々とした体躯である。連日の激務と睡眠不足を、コーヒーと味の濃いにんにくラーメンでしのいでいるのが丸わかりの赤い眼をしている。

この事務所もほかのあらゆる事業所と同じで、明らかに業務量にたいして人手が足りていない。バイトが2人休んだ外食チェーンのテンパった厨房のようだ。この男にしても、戦場と化した厨房から逃れ、この面談に束の間の休息を見出しているのがわかる。「こんなに忙しいのに店長、また面接だって」とバイトに陰口を叩かれているのが目に浮かぶ。

男は「どんな仕事がご希望ですか…」と手続き上の質問を口にするが、過労で明らかに頭が回っていない。この状態でも倒れず、心が折れずにやれているのは、彼が長年の部活動で理不尽にたいする無神経さを培ったからであろう。この男を見ていると、ストレス耐性があるという点で、経営者が体育会系を採りたがる理由もわかるのであった。

派遣される側だけがブラックな事業所に突っ込まれる弱者ではない。派遣する側の内情も、実は同じくらいか、それ以上にブラックだ…と思い至る。ハロワ前で求職者を探すベンチコートの彼も、ほんとうは自分の仕事を探している失業者かもしれない。