おならっぷばーん

You can't fart without changing the balance in the universe.

常識のカーテンレールから外れて生きる

 

引っ越し2週間でやっとカーテンがついた。

戸建てに住むのは生まれて初めてだ。物心ついたときには昭和の団地にいた。豆腐をくり抜いて作ったようなコンクリの塊である。37棟あるうちの18号棟。5階建ての4階に住んでいた。家賃は3万円程で、会社から家賃補助もあって「タダみたいな値段で住めた」と母は述懐する。部屋は狭い。家に遊びにきた一軒家住みの友人は「ほかに部屋ないの?」と容赦なく口にしたものだ。

日本住宅公団がURと名を変えて、「ザ・団地」的外観から現代マンション風に建て替えが行われた。それが高校生のときだ。以来29歳でネット知り合った女性と同棲するまでURに住んでいた。初めて親元を離れて暮らしたのが「グランソレイユ」と大げさな名のついた3階建ての小規模マンションだった。

30年を超える賃貸住みで色々な常識が染みついた。「廊下の掃除、植木類の剪定、共用設備の整備改良は誰かが勝手にやってくれる」「集会場で定期的にいきいき健康マージャン大会が開かれている」。そしてカーテンレールは、始めてから窓とセットで備え付けられているものだという思い込みだ。

家を作る際にハウスメーカーにお願いすれば、初めからカーテンレールをつけてくれるが、「正直ニトリとかで頼まれたほうが安いかと…」と言われて、頼まなかった。それをすっかり忘れて、引き渡し1週間前の下見で(あれ?カーテンレールがない…)と気づいたのである。

 

ニトリのリンクス梅田店でカーテンレールの取り付け工事をお願いする。

一口にカーテンをつけるといっても、

1.業者さんに家まで来てもらい、窓のサイズと下地の位置を確認してもらう。そのデータが、店舗に送られる。(採寸には6,000円ほどかかる)

2.後日また店を訪れて、レールを発注する。レール到着は注文後1週間以上かかる。カーテンを選ぶ。既製品で長さが合わない場合はオーダーとなる。「カーテンなんか別になんでもええわ!」とヤケになっていた我々は、寸足らずを承知ですべて既製品でお願いした。

3.実際に取付工事を行う。所要時間は1時間半~2時間。7箇所の窓に、カーテンレール7個、レース7枚、カーテン4枚(3枚は前の家のものを流用)。商品代に工賃込みで8万円程だ。

取り扱い業者が2社あり、1社は安いが予約が1ヵ月先まで埋まっており、もう1社は工賃が4,000円ほど高いが、早めにできると言われた。1ヶ月スケルトン生活はツラいので、高い方を頼むことに。それでも採寸は頼んでから1週間、取付工事はその採寸から2週間後のことだ。

誰かに見られている気がする、と怯えるのは、妄想癖の強い人の言動だが、実際に窓から隣家のダイニングの食事風景が見えるので、こちらも見られている気がする。とはいえ2週間もカーテンレスで暮らすと、見たくば見よの気概で、裸でウロウロできるものだ。たまにボロアパートの2階に、新聞紙を貼ってカーテンとする住人もいるが、あれでよしと思う家主に共感さえするのである。

 

 

f:id:gmor:20211115183837j:image

3階に書斎がある。カーテンがつくまで自分のひとり遊びが隣家から丸見えで、とくに平日の日中など、無職なのにさもテレワークやってます風にまじめくさった顔をして、机に向き合う演技をし通さなければならないのがストレスであった。これまでにも自室が与えられたことはある。どれも壁向きに机をつけて、背後から机や画面が覗かれるような心配がつねにあった。いま、完全に背後が壁に埋まり、横からしか出入りできないデスクスペースを与えられると、なにをやっても見られる心配がない環境が、どれだけ気楽で、安心できる空間か、思い知る。たとえ肉親でも、いや近しい人間だからこそ見られたくない、ささやかな秘密は誰にもあるものだ。この環境でまた思う存分じぶんの世界に引きこもろう。