おならっぷばーん

You can't fart without changing the balance in the universe.

人生に目標がないのは悪いことですか

 

今月で32歳になる。

年齢相応のオトナになったかと言えば、両親が自分と同い年のときに、すでに定職に就き自分を育てていたことを思うと、わが家庭環境(という限界)に照らし合わせて、オトナの職務を全うできていないようだ。

 

ハロワに通う。家からネット求人を見る。介護、清掃、警備の仕事は、毎日新しい求人が載る。街で見る労働者を自分に置き換えて、働くところを想像するが自分に務まる気がしない。

職業訓練には、プログラマーウェブデザイナー、動画クリエーター養成講座といった華々しい新時代の職業が並ぶ。スキルを身につけても、「32歳」「未経験」に「空白の職務経歴書」の3連コンボで、採用は厳しい。

…こういうことをグダグダ考える余裕が僕にはある。何が何でも今日の鮭弁当を得るために働く必要がないから、「まだ本気出さなくていい」状態にあり、別にそれを悪いことだと思ってもいない。

ハロワを出たら、20代後半のスーツ姿の男に声をかけられた。人材派遣の会社で、ダイハツの自動車工場で組立の期間工を急募していると言う。パチンコ屋から出てきた客を襲う強盗のように、ハロワから出た失業者を待ち伏せするのではなく、ハロワに求人を載せたらどうか、こうまでしないといけない裏(条件面で公的な求人サービスに載せられないようなこと)があるんじゃないか、と疑ってしまう。強引なやり方、闇バイトにでも誘うような手口が気に入らなかったので、「別に生活に困ってないんで。てか、奥さんに食わせてもらってるんすよ」と返してしまった。

ハロワから出てきて何が「生活に困ってない」だ。自分でも矛盾に笑ってしまう。相手は引き下がらない。「説明会だけでもどうですか」「電話番号を教えてください」「一度考えてもらって週明けにお電話します」と言われて、番号を教えてしまった。デタラメな名前と数字を言えばいいのに、本名とリアルな番号とをだ。今風に刈り上げた耳もとには、まだ塞がっていない生々しいピアス穴の跡が3つも残っていた。口のうまさ、会話の間、折れないメンタル、ダメと言われたところから番号ゲットに至るスムーズな流れ…すべてが昔、彼が鳴らしたであろう女遊び、ナンパテクの延長を思わせるのであった。「あーあ、アタシったら、どうしてあんな奴に番号教えちゃったんだろう」と、帰り道で後悔する女子の気持ちだ。

 

人生に目標がない。

人生という響きがすでに自分にとって大げさだ。役所の手続き、住所変更…こまごまとした毎日の課題はある。何もない日もある。妻の口ぐせは「今日何するの?」だ。ここで期待される答えは「面接に向かうよ」「バイトに行ってくる」なのだが、「何か!」と返して、あきれ顔をされる日が続いている。

数ヶ月から数年先を見越した中長期的な目標はない。思えば「なつやすみの計画表」が最初に覚えた挫折であった。今この瞬間を猛烈に生きているわけでもない。夕涼みに土手から鉄道橋の橋脚にぶつかってくだける河を眺めるように、時の流れをうつろに傍観するだけだ。いつかこの男は、水面に映る自分の顔があっという間に老人になっていることに面食らうだろう。ただ僕はこういう人生態度をひとつも悪いと思っていない。

会社に入ると目標と行動をセットし、その評価をするよう要求される。ご丁寧に経過観察の面談つきでだ。僕は「目標を立てて、キビキビ行動して結果を出す」ことを善いこととは思っていないので、当然仕事はできず、会社的にもいらない人間になる。

だからいいのだ。変に頭が良かったり、要領が良くて、仕事ができたりすると、社⇄会にいいように使われてお終いだ。仕事ができる人に仕事は集まる。生産性の高みに向かって激務をこなすようになる。だったら機構とうまく噛み合わない、出来損ないの歯車のほうが、本体がすり減ることがないだろう。ただ動かないから、腐ってしまうのだが…w

さて人生とは、与えられたカード(容姿、健康状態、経済状況…)を使って、各自がいい勝負をすることだと心得る。勝った負けたではない。このテーブルからどれだけチップをかき集めても、会場からは1枚も外に持ち出せない決まりになっている(骸骨には名誉も財布もない)。「ハングリー精神がない」ことを正常な気質の欠如ではなく、自分に備わった資質として現実のさまざまな要求(労働の義務、納税の義務…人付き合い…)と折り合いをつけていくほかない。これが現時点の気づきである。