おならっぷばーん

You can't fart without changing the balance in the universe.

塀を低くした日

 

旧家の解体工事に伴い、お隣さんとの境界にある、どちらの所有物ともいえない微妙なブロック塀を撤去せざるを得なかった。その境界部分をどうするか、担当者T氏と一緒にお隣さんを訪ねて意向を伺うことになった。

こちらは取り壊した部分を元通りにするつもりでいた。腰までの高さのブロックにフェンスを設けた、どこの住宅でもみる一般的な塀である。これの工事費用は45,000円である。

お隣さんの気の優しい中年夫婦の意向によると、緊急時に乗り越えられるような高さの塀がいいということであった。一帯の土地はもと長屋を切り離した細長い家が、かまぼこのようにギチギチに詰まっており、裏には2メートル超のブロック塀が迫っている。避難経路という意味では、裏手はかなり脆弱である。お隣さんの一方の奥は、賃貸住宅の駐輪場となっていて、南京錠で施錠された鉄扉があり、開けられないようになっている。隣の奥さんは神戸出身で震災を経験しており、いざとなったときに二方向避難できるような経路を確保したいと言う。なるほど避難の発想は僕ら夫婦にはなくてハッとさせられた。

協議の結果、ブロックは軽くまたげる3段となり、上部のフェンスもないのでお値段変わって6,000円に。最悪もっと高くなるかと覚悟していたので、双方の利益が一致した上首尾の結果だった。去り際、奥さんが「何建てですか?」と聞くので、3階と伝えると、「日が当たらなくなるかもしれないですね…」と小さな声で言われたのがグサッと刺さる。お互い様ではあるが、お隣さんのほうがより三方を高い建物で囲まれた環境になるので、洗濯物乾きにくくなるのかな…とか考えると心苦しいものがある。

毎回きまって「次のお打ち合わせですが…」と次週の予定を決めていたのに、今日は図面の最終決定ということで、もう打ち合わる内容がなく、あとはささいな外構工事の選択を残すだけで、事実上、家づくりの計画部分は終わったことになる。あとは実際の工事を残すのみだ。次は着工前に近所への再度のあいさつ回りする段階にならないと、担当のT氏と会うこともなく、毎週顔を合わせていたのを寂しく思う。T氏は、31歳の僕ら夫婦より4つ年下だが、そんな風に見えないしっかりしたところがあり、そんな風に見えるおちゃめなところがある。僕らが7月に沖縄への新婚旅行を計画していると話すなかで、「Tさんは新婚旅行とか行きました?」と聞くと、一昨年に結婚したがまだ行けていないと言う。
「Tさんちゃんと休めてます? 有給とか取ってるんですか?」
「会社の計画的付与で5日勝手に割り振られるんですけど、それ以外に追加で休みっていうのはないですね。休みの日も関係なく仕事している日もありますし、休んでるより仕事してるほうがいいって感じです」
できることなら年間休日370日でありたい僕は、勤勉な年下サラリーマンT氏に頭が上がらないのであった。

6月末の退職後、10月の新居完成時にひょっとして無職かもしれない。新居の引き渡し時に家主が無職という掛け合わせに狂気を感じるのは僕だけだろうか。西成にある、簡易宿泊所を改装した「ホテル」では、緊急事態宣言下、新規客にかぎり1泊390円のサービスをしている。宿泊客を取材した番組があり、いい感じに仕上がった西成のおっちゃんが「こらええわ」とか何とか言いながら、ホテルロビーの簡易キッチンでカップ麺をすする画が流れる。番組では触れていなかったが、利用客で大量のゆで卵をつくる者が2人もおり、妻は「なんでみんなゆで卵つくるの?」と不思議がっていた。安くて栄養価が高くて保存も効くからだろう。長期宿泊プランは、都市部の家賃にしても、ネカフェ暮らしに比べても破格に安く、利用客には宿泊14年という猛者もいた。チューイングガムとその外袋のような関係で、シングルベッド1つがギリギリ収まる狭小空間には、「ホテル暮らし」という美名の裏に巧妙に隠れた貧困と、働いて寝るだけ、という労働者の人生を圧縮したような単純な悲哀の彫刻がある。「1週間ぐらい泊まってその模様をブログに書くってのどう?」と妻に言うと、意外にも「おもしろそうじゃん。泊まってきなよ」とOKがでる。いこっかなー。