おならっぷばーん

You can't fart without changing the balance in the universe.

日本刀を受け継いでいく

 

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祖母家の整理中に錆びた日本刀が3本出てきた。前から「家には刀がある」とは聞いていたが、それは「親戚のおじさんにオカマがいる」みたいなファミリー都市伝説だと思っていた。家の解体にあたり、荷物をごっそり取り出したところ、押し入れの奥底から、ちゃんと出てきたのである。

父がこの刀に相当入れ込んでいる。父は50代にしてボディビルダーとはいかずとも、20年間鍛え続けた腹筋、大胸筋、大腿四頭筋を身にまとい、「プロレス関係の人ですか?」と聞きたくなる風体で、開襟シャツに覗く胸板、縄文人譲りの四角い顎にサングラス、ブランドロゴプリントの革セカンドバッグを持ち歩く姿はまるで実話ナックルズの登場人物である。

朝5時半、車をとりに実家を訪れると、その父が半裸で床に座し、刀を磨いていた。窓から射す朝焼けの淡い光を受けて、ボクサーパンツ1枚の男が、パイプのように前腕屈筋群の浮き出た腕で刃渡り70cmにせまる日本刀を握り、ときどき刀身をためつすがめつ、白布で丁寧に磨きをかける。「平成の宮本武蔵ここにあり」「ヤクザ映画の主人公か」「これから討ち入りですか」みたいなツッコミが同時に浮かんできてパニックになり、「な、なにしてんの…」と引き気味で不審者を詰問するかたちになってしまった。

2本は600年前の室町時代のもので、1本は300年前の江戸時代のものだ。長いのは騎乗用の太刀を切り詰めたもので、あとは脇差だ。刀の持つところの根元の部分=中子(なかご)の銘文によれば、本物ならウン百万だ!と思われた名刀も、当時数万本と作られた偽物と判明。その偽物が一番美しい青白い刃文を持つというのも皮肉な話だ。市場価値はぜんぶで50〜60万円くらい。教育委員会に届け出て銃砲刀剣類登録証を得ており、相続時には名義変更の手続きをすれば済む。刀屋できれいに研いでもらい、柄と鞘をつくれば、3本で96万円。メンテナンスは年に数回、油で磨くだけだ。

母は「50万円のものに100万円かけるの?」と気の進まない様子だ。この刀は、母方の一族が代々受け継いできたもの。戦時の金属類回収令、GHQの刀剣接収をくぐり抜け、なにより、600年に渡り、ときどき誰かが磨いて受け継いできたってのがすごい。どっかのタイミングでいい加減な奴がいたら「もう捨ててもいいんじゃね?御座候」的なノリになっててもおかしくない。市場価値が低くとも、脈々と刀が受け継がれてきた長大な家系図を想像させる意味で、片棒を担ぐじゃないが、そのリレー選手の1人として、刀を持続させる営みに加担できることに、なんだか妙なロマンみを感じるのである。もとは、どっかの藩の家老だった人の後妻の子どもが鳥取藩に入り、○○家の中級武士になって…とロシア小説よりややこしい人物相関図を聞かされてちんぷんかんぷんだが、とりあえずそういう自分のルーツと血の流れに乗ってやってきた刀である。

「うちの家は武士だった」と幼い頃から事あるごとに母に聞かされた。何言ってんの?とは思うが、母なりに謎のプライドがあるらしい。もちろん冗談半分である。7月にいったん無職になるが、とりあえず将来は剣豪になろうと思う。