おならっぷばーん

You can't fart without changing the balance in the universe.

入りづらい喫茶店に入る

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初めて駅ビル前の老舗カフェに足を踏み入れる。

チェーン店が好きだ。マニュアル化された接客に笑顔はあれども人間関係は希薄だ。行きがかりの客に気まぐれ学生バイトの一期一会。ドリンクとサービスは規定量、規定温度、規定手順によってもたらされる工業製品。「豆の深煎りは歓迎だけど、人間関係の深入りはごめんだね」が口癖の生きづらさトップバリスタの僕にとっては、チェーン店のほうが気楽だ。個人店は入りづらい。常連客がいそうで、癖のあるマスターがいて、やりとりにも熟練のコミュニケーションスキルを要求されそうで、コーヒーが分かってない奴は馬鹿にされそうで、軽快なガラス戸の門構えは、瓦屋根を頂いた古寺の大門さながら重厚な不透明感で入門者を拒む。

 

財産を失っても痛手は少ない。健康を失うと痛手は大きい。勇気を失うと取り返しがつかない」作者不明
結局の所、『こんなことは馬鹿げてはいないか』という恐怖心以外に、この世に馬鹿げたものは存在しない」アンリ・フォーコニエ
(by 『カーネギー名言集』創元社

最近のマイ・ワードは「勇気」なので、スタバやミスド、既知の喫茶店など、安心安全の選択肢を避けて、意を決して入った。

宣言下、18時閉店と知らずに閉店1時間前に入ってしまい、長居してマスターの片付けが残業になってしまってはまずい、と妙な気遣いをする。妻と2人きりの空間、聞こえるか聞こえないくらいかのジャズフュージョン。年季の入ったメリメリのソファ。カウンターに詰め気味で並ぶ丸椅子がかつての盛況を思わせる。アメリカの代表的な近代絵画、エドワード・ホッパーの『ナイトホークス』の登場人物になったような気分だ。

ブレンドコーヒー以外に、特定の豆を使ったスペシャルコーヒーのメニューがある。表看板に「本日の豆はマンデリントバコ」とあり、普段600円のところ、500円だったので、これを頼むことに。インドネシアのトバ高原の近くでとれる豆らしく、周辺の火山、火山灰の影響がナンタラ…でとにかく味わい深いコーヒーだという。火山の活動的な荒さを想像したが、サラサラした口当たりで渋みもなく、飲み重ねるほどに深いルビーのようなうまみが感じられて、コーヒーを飲んだときの幸せがずっと続く最上の一杯だった。コーヒーは安いが正義と思って、ずっとスーパーの徳用を買っていたが、カルディ福袋から高級豆のうまさに衝撃をうけて、初めてコーヒー風味の苦水ではなくコーヒーを知った。最近嫁からキーコーヒーの氷温熟成ブレンド100g900円のものをもらって、やっと味が分かるようになってきた。煎り方とか挽き方に注意が向くようになってきた。喫茶店のマスターも、オメエに味がわかるんかい的な目線で、ラーメン屋の店主が初っ端からコショウを振られるのを嫌がるように、砂糖やフレッシュで台無しにしてくれるなよ、みたいな第一次審査の圧を感じたので、しっかりブラックでいただいた。というか、なにかを入れて飲むという発想が出てこないくらいうまかった。

この喫茶店ではサブスク制度があって、1ヵ月5000円、ブレンドコーヒー・カフェオレ・各種ティーが1日1回何度でもおかわり自由らしい。まさかこんな個人店で、流行最先端のビジネスをやっているとは。ふつうに通いたくなった。入ってみるもんやね、喫茶店