おならっぷばーん

You can't fart without changing the balance in the universe.

今年の目標は「仕事やめる」

 

毎日きまって午後3時から4時のあいだに、レーンを流れる洋服に伝票を貼りながら「なんで俺がこんなことせなあかんねん」タイムが始まる。ファッションに興味ある奴全員ブラウスより人間薄っぺらい説を唱えている僕が、クリーニング工場で、何百何千という衣服の奴隷となって酷使されているとは、何たる皮肉だろう。僕はクリーニング工場で働く以前も以後も、服をクリーニングに出したことはない。出し方が分からない。真っ白のダウンはすぐに汚れたが、家で洗えないから捨てた。洗えないものは買わないか、洗わずに着続けるか、汚れたら捨てるか、だ。家族がクリーニングと無縁であった。その母が「おばあちゃん貧乏やったのに、いつも私の制服、クリーニングに出してくれててんで」という話に、少しながら感動を覚える。女学生のジャンパースカートを検品するたび、制服好きの変態は校舎に忍び込むより先にクリーニング屋で働いていれば下手をせず天職も得られたろうに、という話と、母の感動的な話を同時に思い出すのである。

「辞めます!」と言って明日から来なくなったどうなるだろう?と考えて、マスクの下でむふふと声を出して笑ってみる。カッターシャツのしわを伸ばすプレス機は、たえずプシューだのゴーッだの、蒸気と圧縮空気の音を踏切をいく電車の音量で聞かせるのだが、そんな騒音のなかでは聞こえまいと、「そうかそうかそうやったんや」「そらチンコでっせおたく」「あほんだらカス~」と普段口にしない文句を言ってみる。物陰からひょっこり人が顔を出すと、まさか自分の独り言が聞かれたんやないか、キチガイと思われるんちゃうんか、あほんだらカス…と冷や汗をかく。

今年の目標は「仕事をやめる」ことだ。30歳で脱サラならぬ入サラで初の社会人経験をし、年間休日106日、1年無遅刻無欠勤、僕が今とんでもない犯罪をしでかせば同僚は口々に「まさかといった感じ。性格はおとなしくて、勤務態度はまじめだった」と答えるに違いない、順応性を見せている。スーツを着ない現場職で、飲み会も接待も挨拶まわりもない。社会人としての慣例、上司への接し方、会合のマナーなど、知ってたまるかの生ぬるい環境でやらせてもらっている。身体は正直だからもう何もしなくても6時過ぎには目が覚めて、いそいそと作業服に着替えて出勤の準備をする。しかし心では仕事中にふと「あれ、これって時間の無駄ちゃうん?」と、自分の人生が盗まれている感触がする。

今年中に転居する予定である。通勤困難による失職は確定しているので目標は自動的に達せられる。「引っ越したら遠くなるけど仕事どうするん?」「バイクでも何でも来れますよ!」と言ったが、ありゃ嘘だ。やりー! 失業増がニュースになるなか、次の仕事が見つかるかどうか分からん恐怖より、解放される喜びのほうが大きい。『思考は現実化する』って本は読んだことないが、学生のとき、必死に就活するゼミ生に「おれは遺産を運用して生きていく。みんな本気で働きたいの?」と卑劣な思考をたれ流していたのが、今になって現実化している。親から計画的に受け取る贈与分を自分の口座にぶち込んでいる。「ちゃんと銀行に入れたから安心して」と言ったのは本当だ。ただ楽天銀行楽天証券の口座が裏でシームレスにつながっていることは説明しなかった。あとは株で200億稼ぐだけだが、日経爆上げ相場にもかかわらず、ここ半年の成績はマイナス10万円と着実にお金を減らしつつある。FXで親の金を数千万単位で溶かして話題になった配信者がいたが、まさか僕も…。そらチンコでっせおたく。