おならっぷばーん

You can't fart without changing the balance in the universe.

新聞配達のバイクって妙にいいですよね

 

新聞配達という仕事が妙に抒情をそそる。

好きなのは、パチンコ屋にとまった配達バイクだ。配達員にはバイクの私用が許されている。夕刊を配り終えたその足で、ひと勝負かける生活に、その日暮らしのサイクルのドラマを感じるのである。新聞の1面には国をゆるがす一大事が載るが、そんな中枢の政治の話など、わが生活とは無関係の小事として郵便受けへ突っ込んでいく。その日の労働が終われば、その日の時給をかけて、二日ぶん勝ち、三日ぶん負けて、春夏秋冬を潰えていく。明け方まで遊んでいるとき、よく新聞配達のホンダ・カブを、警官のバイクだと勘違いをして、トコトコと響く4ストロークエンジンの音に身構えたものだ。近所では、リターン4速の1速しか使わずに、アクセルを入れては戻し漸進する配達のおじさんを「ミスター1速」と呼んでもてはやしていた。

人もまばらな早朝、いや午前3時は深夜である。人と会わずに黙々とひとりで作業する仕事に適性があると思い、何度か住み込みのバイトを探したことがある。見知らぬ土地で新聞を配りながらつつましく暮らすなど、蒸発の現実的な手段としてたまに想像すると、頭がすっきりする。昔みたTVで、実際に東京で住み込みの新聞配達員をするまじめな青年が、お笑い芸人にからかい半分に密着されていた。3畳ワンルームは布団を敷くと余白なく、大事な私物はすべてスーツケースを金庫代わりにおさめていた。家にいながら家出少女のネカフェ暮らしのような生活感だった。スーツケースは鍵付きだから安全、と得意げに話す青年に、「スーツケースごと盗まれたらどうすんの? わざわざそんな盗み出しやすいものに入れて」とつっこみが入る。この青年は、使った食器を洗わずに冷蔵庫にしまう。食事の際は、また冷えた食器をとりだして使う。冷蔵庫に冷やすことで、食器に付着した汚れ、雑菌がなくなるという彼なりの理屈である。僕も飲みかけのコーヒーを冷蔵するとき、再来週まで持つような安心を覚えるが、さすがに殺菌洗浄効果まで期待するのは屁理屈だ。住居は社会にたいする冷蔵庫である。青年には、狭い3畳のスペースが、彼を腐敗から守ってくれる冷蔵庫なのであった。

一番好きなのは、個室ビデオ店を出る配達バイクだ。「DVD鑑賞室」とド派手に大書された看板をみるたびに、どんな奴が入るんだ、と疑問に思い、しばらく出入り口を眺める。平日の昼間から客は来る。入店後、買い物かごを手におかずの選別へ意気揚々と繰り出すさまは、夕食の買い物にきた主婦と大差ない。駐車場から走りだす一台の配達バイク、おそらく独身だろう五十絡みの男で、首かけの半ヘルに、薄い前頭部のごましお頭が風になびく。仕事のあとにさらにひと仕事を終えた男は、熱っぽい倦怠と能力の活用感に満ち、日差しにむかってアクセル全開で駆け出した横顔に、男児の郷愁と孤老の青春がきらめいていた。