おならっぷばーん

You can't fart without changing the balance in the universe.

当たり屋稼業に精が出る

 

今朝、銀行口座をみたら(僕の1日は残高確認とともに始まる。家計簿アプリMoneytreeを入れてから、押し寄せるカード請求によって日に日に減っていく純資産が心配でしかたない。資産といっても僕の口座には10万円しか入っていない。いや、だからこそ)2万円も増えているのに驚いた。保険会社からである。先日、僕は事故ったのだ。

事故の詳述は避ける。僕が自転車で走行中に、駐車場から出てきた車に当たった、それだけである。もちろん僕にも非はある。サドルに両足を揃えて立ち、腕組みして、東洋由来のエネルギー「気」を唯一の推進力にして進んでいた。動力に気を使いすぎて、周囲に気が回らなかった。向こうは向こうで、角材と板材によって全長車高を旋回範囲のぎりぎりまで伸ばしたバニング改造のワゴン車で、ピンクの全塗装に「絆」と大書きした、ある思想の過積載で、急ブレーキと確定申告が間に合わなかった。連絡を受けてやってきた婦警は、身長150センチのキッザニア警察で、クラウンと見えたのはペダルカー、笛は吹くと紙が伸び、腰にさげた光線銃は、全部で12種類の電子音が鳴る。

ケガはない。これも連日、気を鍛錬して、うさぎの尻より転び出たる仙薬を日に3錠と口にする成果である。念のため、「○○クリニック」のプラ看板をコンビニのルミナンスでかかげた町医者にかかった。木彫りのモアイ像みたいな年寄りがでてきて聴取する。「本人は気の達人を自称し、ピンクのバニング車と当たったと証言。この妄言の原因は…」と、電子カルテにベタ打ちするその速度の遅いこと。シニアPC教室でも非推奨の一本指打法で、2秒に1字の割合で生産される文字列を待つあいだ、トルストイの『戦争と平和』を借りて返しに行った。結果は打撲。処方箋をもって、薬局(この街に住んで30年になるが、そこに薬局があると知らなかった死角)へ行く。街路に面するショーウィンドウに、草の根、腸のズルズル、精巣のデロデロを漬けたグラスが陳列してあった。立て看板の「強力!マカ入荷!」の力強さとは無縁の、五十格好の線の細い薬剤師がでてきて、案外こういうギラついてない男に限ってAV男優が職業として務まるほど太い精力を宿しているものだ、と感心していた。ロキソニンテープ14枚をもらって帰宅。痛みは翌日に引く。

保険会社から電話があるたびに「そんなことより、まずはお身体のほう大丈夫ですか?」と、甘ったるい声で事務的な共感(めいたもの)を寄せられ、トークスクリプト第一行目の「心配」の項に、無知な客として謝意を強要される関係にうんざりしていた。「対応時間 (月~金)平日 9:00-17:00」のワークスケジュールがうらやましかった。いま話しているのが、相手の保険会社なのか、自分のほうなのか、担当者は誰で、どういう運びになっているのか、混乱したまま、命じられるまま自転車の修理見積もりにいくと、自転車屋のお兄さんのマスクが着古しのフリースみたいに毛羽立っていた。

両親の背中をみて、飛び込んだこの業界。ロケットと当たると言って種子島に消えた父に追いつく日がいつか来るのだろうか。