おならっぷばーん

You can't fart without changing the balance in the universe.

【食評】記憶力を維持するガム

f:id:gmor:20181220173334j:image

整理のふりして商品説明を読む。これがスーパーのバイトの暇つぶしだ。安心の国産、新製法でさらにおいしく、体にやさしい糖質オフ、など空疎な文字が並ぶあたり、式の合間にみる生い立ちビデオの寒々しさである。新郎は、堺市の刑務所で13年の刑期を終えたあと、淀川の売春宿で新婦と初めて肌を重ねました。共通の趣味である窃盗と傷害を通じて意気投合、京橋の酔っぱらいを地面に引き倒して財布をせしめる路上強盗が、2人の初めての共同作業になりました。新婦の父は右翼団体の元幹部で…とはならないものか。元受刑者やアウトローの式場の紹介文はどうなっているのか。

 

 


f:id:gmor:20181220173325j:image

大体、僕は画像にあったキャプションをつけるのが嫌なのである。写真とぜんぜん違うことを語るほうが勝手でいいじゃないか。

 

 

f:id:gmor:20181220183039j:image

(富士山が雲を呼んだ。峰の頂に無数のUFOを引き連れて母船が停まった。回転している。次から次へと富士山目がけて空のあちこちから群がって来た。やがて形はアラジンの魔法のランプになった。見る度に中から大男が現れて一つ夢を叶えてくれる。)

新大阪の東横インのロビーでみつけた富士山の写真パネルの説明である。エレベーターに乗るのも忘れて二度読みした。意味がわからない。

 

岡本太郎は記号的な富士山を嫌った。

料理屋とか古風な家などにいくと、ついたて、ふすま、のれん、タバコぼん、うちわなど、ちょっとした工芸品のすみにまで、よく八の字のような形が描かれたり彫ってあったりします。…この八の字は、富士山です。…絵ではなく、一種の符丁、合言葉です。「八の字」――富士山――結構なもの、と文字のようにすらすら読めて、納得がいくだけの話です。なるほど、なにもわからないことはない。が、しかしいったい、なにがわかったというのでしょう。
岡本太郎『今日の芸術』

北摂に住む僕は、万博公園に建つ太陽の塔に、小さいときから繰り返し対面させられるために岡本太郎を崇拝する。だから彼の言うとおり、富士山と聞けば無条件に佳きもの、めでたきもの、とする発想は避けたい。ロビーに富士山を飾るのはまさに八の字発想、毒気なく、万人の納得する安全策だが、それだけにこれほどつまらない写真もない。

カントは言った。「真の崇高性は、自然的対象において求められるものではなくて、判断者[主観]の心意識においてのみ求められねばならない」判断力批判』。なるほど、これは僕があの難解なカントを読んだと表明するための引用だが、UFO、アラジン、大男の出現とわめきちらす彼を見れば、富士山を崇高にするのは、彼の心の動きなのだとわかる。

 

 

f:id:gmor:20181220173329j:image

歯医者から、詰め物がとれるからガムを控えてくださいと言われている。でも大丈夫だ。このガムの正式名は「歯につきにくいガム板〈記憶力を維持するタイプ〉」なのである。

本質とは、それが欠けると、そのものが成り立たなくなるような性質のことを言う。このガムを、ほかの商品から際立たせる最大のポイントは記憶力を維持する性質なのだから、本来なら「記憶力を維持するガム板〈歯につきにくいタイプ〉」と書くほうがいい。人間を定義するのに、薄毛のサル〈よく考えるタイプ〉とするのでは、天井のバナナを棒でとる彼らと同じ通勤電車に乗らなければならなくなる。

 

さて味だ。食評では、記事を書くまえに何個か食べて、なんとなくの感想を用意しておく。写真を撮り終えて、記事をつくる時、食べ直して味を確認するのだが、このガムは二枚と食べたくない。だから味の再現は過去の記憶を頼るしかない。幸いにも、ガムが記憶力を維持してくれるので、試みにいま一度食べることで味を思い出したいと思う。

この味だ。忘れもしない。寒いせいで硬くなったガム板を舌と歯でこねていくと、ぷちぷちとフライの衣をつぶすような食感とともに、じわじわ歯みがき粉の味が立ち上がってくる。潮の満ち引きと同じで、気付いたときには口が歯みがき粉と唾液の水でいっぱいである。問題は、この水を飲まねばならぬことだ。かつて宇宙飛行士を目指した少年は、彼らが資源制限下のシャトル内で、あの歯みがき後のぐじゅぐじゅを飲みこんで処理すると知り、夢を諦めた。ここは宇宙じゃないから、贅沢にシンクへ出すと、つぶれた芋虫の腹から漏れるような、うすい緑の廃液が、なかに微細なつぶつぶを含んで、渦をつくっていた。頭がクラクラする。これが記憶力の維持作用なのか。まるであれである。ほら、有名なあれに出たやつで、それがあれと一緒になったやつである。分かるかな? これはあれだ、ほら有名なやつの。なにしようとしてたっけ? そうだ、ブログを書くんだった。

 

 

 

 

 

【食評】記憶力を維持するガム

 

f:id:gmor:20181220173334j:image

今日は何月何日だ。この記事は朝か夜の11時に投稿されるみたいだから急いで書くけど、この画像は何だ? そんなことより財布から130円なくなっている。誰かに盗られたと思う。

 

 


f:id:gmor:20181220173325j:image

いま口にしているガムがこれなのか。もう捨てたいのに、ゴミ箱の位置が分からない。今日は何月何日だっけ? とにかく11時頃(朝?晩?)に投稿されるみたいだから急いで書こう。これさっきも言った?

 

 

f:id:gmor:20181220183039j:image

富士山はキレイだ。UFOが飛んで、うわぁーっとなる気持ちも分かる。日本人はあの八の字を見るだけで、幸せなのだ。

ほら、あのおじさんも言っていた。

牛の放牧場では、巨大なホルスタイン種の乳牛の群れが、下っ腹のところにタンクみたいな凄い乳房をぶら下げて、草を食んでいる。
岡本太郎『日本再発見 芸術風土記

それが盛岡の小岩井農場なのだ。

 

著名な哲学者も言っている。

「やりてーぜ」「入れてーぜ」の二大テーゼがあれば人間の男は事足りるはずですが、そういう「本当のこと」だけを言わないために、義務教育を受けるものなのです。
みうらじゅん『正しい保健体育 ポケット版』

両テーゼの真理値分析が哲学のすべてだと言っていい。富士山の場合、登りてーぜ、家でゆっくりしてーぜの二派に分かれることになるだろう。

 

 

f:id:gmor:20181220173329j:image

このガムは一度も食べたことないので、食べようと思う。おいしい。でも噛んだら、歯から何かとれた。何だろう。歯医者に行った記憶はない。

ぼくはそろそろいえにかえる。だから、このいえをでなくちゃならない。でもいえまでのかえりみちがわからない。そもそもぼくはここでなにしていたんだっけ? あれ、ぼくってだれだっけ?