おならっぷばーん

You can't fart without changing the balance in the universe.

ネカフェ遊民

f:id:gmor:20180703141446j:image新大阪駅のネカフェなう。

漫画が読みたいわけじゃない。漫画を読まないからである。終電を逃して朝まで時間をつぶしたいわけじゃない。夜、出歩かないし、飲まないからである。スタバで読書は人目が気になって集中できないし、公園で鳩にエサをやるにしても糞害のもとだと迷惑がられるし、ママ連中は警戒して子どもの手を引き立ち去ってしまうし、手のしわを数えるにも数が多過ぎるし、犬と遊ぶにも犬を飼わなきゃいけないし、地底人の侵攻にそなえて地下壕を掘るにしても敵が攻めてくるのはその地下からだし、人間加速器で人体を衝突させて宇宙誕生のひみつを解き明かすにしても出来るのはミートボールだけだし、やることがないという時にかぎって漫画喫茶へ行く。

3時間1,500円。立地もあって相場より高値だ。都心からすこし離れたわが家の近所なら同額で6時間は滞在できる。その代わり設備がきれいだ。都市部から離れるほど設備が悪くなるように思う。

渋谷、池袋にあるHailey'5cafeは、ICカードで開くドアつきの完全個室で、内装は本物のカフェだった。木組みのラックにあらゆるファッション雑誌を収め、きれいな顔した男女があてがわれた個室で無内容のスマイルを決める。ちょっとしたスペースに、葉のでかい観葉植物、背もたれの吸いつくソファ、ウッド調ではなくウッド削りだしのサイドテーブルが置いてあって、大阪の片田舎から来た僕は「こらいかん、ハイカラなとこや」と萎縮するわけである。

これが近所の漫画カフェなら、漫画にもカフェにも体重が乗っておらず、受付カウンターではバイトの志望動機に「ひまそうだから」と書いたのが丸わかりな寝ボケ顔の大学生がこれで何千回目という注意事項の説明をお経のように読み上げてくれ、通路を進めばけもの道みたいに人の踏むところだけ色の淡くなったフローリングシートが足になじみ、「選択肢が多いほど人間は決断に苦しむ」という研究結果をふまえ、コーヒー、コーラ、メロンソーダとあえて飲み物の種類を制限して客の負担を減らし、ブースに入るとスポンジが露出したマット、随所にかさぶたみたいなふやけ、擦り傷のようなめくれ、ホクロのごとき黒カビを作った机が出迎えてくれ、ケチで有名な祖父母の家に遊びに来たような居心地を演出する。ここはカフェなんていう気取った人間の集まる場所でなく、貧乏ひまありの人間が漫画、ネットという暇人の二大趣味を時間の許すかぎりしゃぶりつくす場なのだと、自分の社会的な立場をそっと教えてくれるサービスもある。

東洋経済週刊実話などふだん見もしない雑誌を小脇に抱えてマイブースへしけ込む。座椅子があるわけじゃなし、地べたに座り机に向かうと、寺院の一室でろうそくの明かりをたよりに写経にいそしむ修行僧のような気がして、なんで漫喫に来て雑誌を読まねばならんのだと開き直り、横になってブランケットにくるまる。壁の警告に、室内でのわいせつ行為は発見次第、即刻退店していただく、とある。店はカップルシートを全席もっとも人通りの多い飲料サーバー前に作った。しかし、誰かに見られるかも、聞かれるかも、というスリルが漫喫でマン喫する楽しみなわけで、作戦は失敗だったと言わざるをえない。ブースは透明のアクリルボードで外界と隔てられる。ブラインド代わりにブランケットをかけて中を覗かれないようにした状態で飲食してはならない、と言う。過去に同行為で、警察から3時間の事情聴取を受けた人がいる、と脅して書く。
「なにを食べたんだ?」
赤いきつねです」
「ウソをつけ。緑のたぬきだろう」
「はいその通りです」
みたいなことだ。

警察の文字を深刻に受けとめたのか、視線をさえぎる人は少なく、ブースのスリットから、口を開けて眠るおっさんの顔や、よれたくつ下が暗所にまぶしくにゅっと突き出しているのが見える。面白くなって次々に部屋を覗いていると、目を血走らせたガリガリの青年と2秒間見つめ合ってしまった。恋が生まれる瞬間だと思った。