おならっぷばーん

You can't fart without changing the balance in the universe.

完璧な買い物

 

私は完璧な存在である。

いままで間違いを犯したことがない。どんなに厄介な問題でも、頭のなかの高度な論理演算機構がすぐに最適解を導いてくれる。世界史で有名な人間風に言うならば「私の辞書に失敗の文字はない」のである。

しかしそれでは生活が窮屈だ。車のハンドルが指先1ミリの動きにいちいち反応していては、運転に神経をすり減らす。健全なシステムは、誤差を許容するバッファーを備えているものだ。ハンドルにも生活にもある程度の遊びが必要なのだ。なんでも完璧にこなしてしまう私には、いや完璧だからこそ、大きな失敗が必要なのだ。

電器屋で過失機を買ってきた。店員によると、
「こいつは89年式の機械でして、ちょうどゆとり教育の実施された年代のものですから、それはもう大失敗作でございます。おまけに職人夫婦の家でたった1台の機械として大切に生産されましたから、自己愛が強く、周囲に甘えてばっかりで、自立の精神がまったく欠けている。稼働28年にして未だ大きな成果なし。大学受験に失敗、予備校通いに失敗、就職に失敗、公務員試験に失敗、なんとか近所のスーパーにアルバイトの口を見つけたものの、まじめな勤務に失敗、職場の人間関係に失敗、せっかく貰ったわずかばかりの給料をすべてギャンブルにつっこんで失敗と、失敗を数え上げたらキリがありません。きっと家に置いたその日から大活躍してくれることでしょう」
高性能を謳っても、結局ものごとを首尾よくこなしてしまう機械が多いなか、私が掴んだものは、どうやら本物らしい。

 

これは早速、愚かな考えを抱いた。
「手とか顔が乾燥して粉っぽくなってる。新しい加湿器を買おう」
これはすでに自分の加湿器を持っているが、手入れを怠ったせいで、吹き出し口からラグビー部の部室のようなニオイがする。消臭機能が売りの加湿器がくさい空気を出してどうする、と頭にきていた。知り合いの女に、ほんの会話の糸口として、オススメのものがあるかどうか尋ねたら、
「いま欲しいのがあるんだよね。一緒に買わない? おそろにしようよ」
と言われた。
加湿器をお揃いで買うなんてバカバカしいと思ったが、ひょっとして俺に気があるのかもしれない。そうだ寒いから一緒に暖め合うのもいいな。おたがい乾いているところを濡らし合うんだ、と想像ふくらませて、言われるがまま注文を出したら、なんのことはない、そのメーカーの商品を2ついっぺんに買うと200円安くなるのであった。女にとってこの過失機は、安い割引券の価値しかないのである。

 

これは届いた加湿機を前にして、めずらしく賢明に考えた。

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部屋の湿度はどうなってるんだ?

 

湿度計を買ってから気付く、

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部屋がぜんぜん乾燥していないことを。

 

これが感じた乾燥は、たんにこれに水分が足りないせいであった。結局これは、買った加湿機を一度も使うことなく、箱に入れたままにしている。

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私の部屋の失度は高い。