おならっぷばーん

You can't fart without changing the balance in the universe.

こんな古本買いました

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ど平日のまっ昼間、ブックオフで僕がまずチェックするのは特価コーナーではなく、客層である。

仕事をサボって漫画を読んでいるサラリーマン、これが一番つまらない。散歩ついでに立ち寄って料理雑誌を見開く主婦、リタイアライフを歴史小説の乱読につぎ込む老人がそれに次ぐ。そして最も魅力あるのが、20代から30代の、ろくに仕事もせず、かといって派手に遊びもせずに生きてきた、元気も覇気もない暗い目をした男たちである。

毛玉だらけのスウェットパンツにボロサンダル、首のゆるんだ部屋着のうえに、外出のときはこれと決めた使い古しのパーカーを着る。髪は、もっぱら散髪屋のオヤジと話すのが面倒だからという理由で、水中で破裂した墨汁みたいにうねり、乱れ、伸び、輝いている。手ぶらで、場合によっては財布すら持たずに歩く。

気味わるい連中だな。こいつらより俺のほうが絶対マシだ、と思う自分の姿を鏡に見ると、同じ日の同じ時間、同じ格好で同じ店をうろつく、同じ顔の男が映っている。そうか、俺らは同類だったんだ。そうだよな、こうじゃなかったはずの人生に倦んで、どうにか救われたい気持ちで本ばっか読んでるんだもんな。退屈人にとってパチンコ屋が病院となるように、ここは俺らみたいな立っても寝たきりのモラトリアム老人が集う教会だもんな。すれ違いざま、そんなことを語らずとも語る孤独な連絡がある。

 

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『パンセ』と言えば、「人間は考える足」で有名だ。

人間は考える足である
靴した替えねば臭くなる
爪のあいだにゃ垢たまる
かかとのひび割れ消すやすり
やすりの気持ちになってみろ

と続く、17世紀の流行歌である。

読む本読む本がやたらと『パンセ』を引用するので、僕もさらっと記事に一行、するどい警句を引いて見せて、自分の制作物に正統性があるように、書き手の自分に知性があるように思わせたい。

たまたま開いたページに
「人間は、屋根屋だろうが何だろうが、あらゆる職業に向いている。向かないのは部屋の中にじっとしていることだけだ」
という一文を見て、そうだよな、家にひきこもってばかりいないでちゃんと外で働いたほうがいいよな、でないとこの本にも出会わなかったことだし、とひとりで運命をでっちあげて、買ってしまった。

 

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「清貧」から文化は生れない!

さっそくこの本を買ってムダ遣いしようと思わせる名文だ。捨てるだの、持たないだの、ミニマリストを称揚するすべての流行の書物に巻いてまわりたい帯である。

7世紀当時の皇帝が、とにかく大船団で出掛けたい、というわがまま一心で拓いた運河が、王死して国滅びてなお、幾世紀にわたり要所を結ぶ交通網として利用され、現代中国の動脈となっている、という話を聞くと、後代まで残るものは、卑小な倹約ではなく、偉大な蕩尽から生まれることがよく分る。この事実は親に教えないでおこう。遺産が、骨董や盆栽に消えては大変だから。

 

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開高健の『オールマイトゥモロウズ』が裸なのは、カバー写真を切り抜いて机に敷いたからだ。

 

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知らない人が見たら、恋人なのかと疑うだろう。当たっている。ただし一生実らぬ、片想いである。