おならっぷばーん

真夜中の異臭さわぎ

『週刊 ブログの更新頻度』創刊

 

食べたら、吐いちゃえばいいのよ。母はダイエットに苦しむ娘に言う。少女は、食事のたびにのどを指で突いた。ファッションモデルのようなウエストを手に入れたあとでも、食べ吐きは止まず、まともな生活を送れない身体になってしまった。そんな話を聞いたことがある。僕も悪魔のささやきを聞いた。
「書いたら、あげちゃえばいいのよ」

便所に入って下書き用紙を床に置き、口を開けてのど奥にペンを挿す。消毒液のついた茶色い綿棒を押しつけられた時みたいに、げっと吐き気のするだけで、原稿は進まない。
「バカ。人の話をちゃんと聞け。今年の夏は腰巻きひとつまとわない強気の水着姿で勝負したいってがらじゃないだろう。更新頻度を上げたいんだな?」
「したいことはあります。宝くじを当てたい。きれいな女と寝たい。スポーツカーに乗りたい。ガラス瓶にさきイカみたいな木の枝を挿したアロマディフューザーが欲しい。冷たい床を裸足で歩くのが嫌だから、室内履きのスリッパも欲しい。ブログ更新はまだその先です」
「お前は欲望のスケールが一貫しないね。いいか、宝くじは買って当てるより、当たった奴をなにして盗んだほうが早い。女は手頃な奴を引っ張ってきて、顔にプリントしたアイドルの写真を張りつけろ。車は1000馬力のスーパーカーも、軽自動車と同じ信号につかまり、同じオービスに撮られ、同じ渋滞にはまる。中古車にマジックで"sport"と書けばいい。お前はアロマを語る顔じゃない。拾った空きカンに枯れ枝で十分だ。スリッパが欲しい? 歩いて移動できるだけの床面積もない家に住むくせに贅沢いうな。くつ下でも履いてろ」
「はあ」
「更新頻度はすぐ上がる。頃合いで書くのをやめて公開し、続きを次回の記事にまわせば数を水増しできる。毎週少しずつパーツを集める分冊雑誌みたいなものだ。お前は中学の頃、創刊号の安値につられて、自走するお掃除ロボに手を出し、3週目で早くも小遣いが尽きて、手元にのこったプラスチックの台座だけをしかたなく床で滑らせて遊んだな。忌ま忌ましい記憶だろう。その失敗を生かすときが来たのだ。この世界じゃ、更新しないと死んだも同然だからな。食べ吐きの結果、内容がガリガリに痩せ細っても気にするな。時代は軽さ、真剣でないことに価値を置く。いまさら便意をこらえた顔で、人生とは、幸福とは、自分とはなにかを語っても流行らない。そんなことは宗教家、哲学者、非モテの中二、スピリチュアル好きの主婦に任せておけばよい。お前の仕事は、お前であることだ。西田幾多郎も言うではないか、

善とは自己の内面的要求を満足する者をいうので、自己の最大なる要求とは意識の根本的統一力即ち人格の要求であるから、これを満足する事即ち人格の実現というのが我々に取りて絶対的善である。
善の研究

なにを言ってるか分からんが、有名人の言葉はありがたく聞くものである。自分の発言に箔をつけるために古典は存在する。宮内庁御用達とつけたカステラを売るために、皇族が存在しているようなものだ。お前の仕事は、お前の苦悩、反省、疑念を含め、お前の思うところを思うになりに書くことである」
「僕の思うところは4文字で済みます」
「なんだ?」
「ここに書いてもいいんですか?」
「もちろん」
「やめておきます。いくら好きだとはいえ、街で落書きを見たときには、ギョッとしますからね。とくにカタカナのやつが」
「実物のほうがゾッとするよ。愛とは、欠けたる者が元の全き状態に還らんとする情である、というプラトンの説を引くと、女がケーキを愛する理由もよくわかる。一方は、ぶっきらぼうな無地の紙箱をあけると、ふわふわしたスポンジにかわいらしいイチゴがちょこんと座った白亜の宮殿が出てくる。もう一方は、ホイップクリームを思わせる色かたちで事前の雰囲気を高めるが、いざ包みをほどいてみると、もわっと煙りの立ち込めるガード下のホルモン焼肉屋である。あれは文字でみるほうがよっぽど綺麗だ。あれよりほかに言葉の抽象作用というものに感謝を覚えることはない」
「そうですか? 僕なんかは毎号パーツを集めて家に置きたいくらいですよ。創刊号は恥丘がついて590円」
「買った! いや、待った。これがお前の書きたいことなのか?」
「まさか。下ネタは嫌いです。読者の哀感と猥褻感とに訴えることが文章技術のもっとも低級なものである、と三島由紀夫か誰かが言ってましたよ。まわりを見てください。テレビには感動だけ、ネットにはエロか、感動的なエロしかありません。僕はそのどれでもないところを狙っています。書きたいことは山とある。それこそヴィーナスの丘のように」
「その書きたいことっていうのは何なんだ?」
「それは次号のお楽しみ」

 

 

 

今週号のパーツ

アマゾン川

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