おならっぷばーん

真夜中の異臭さわぎ

カバンの中身はなんだろな

タレント・モデル・お笑い芸人のカバンの中身を紹介する雑誌記事があった。

AV男優のしみけんは、コンドームはもちろんのこと、たんぱく源となる鶏肉の真空パックを持ち歩く。それより気になるのは彼の略歴にある「経験人数8000人以上」という数字だ。世間には経験人数の項に「1」を刻むことが出来ずに苦しむ人間がたくさんいるというのに(よい子のための参考図書: 中村淳彦『ルポ 中年童貞』 幻冬舎新書)、8000とはどういうことだ。

なんでも程度のはなはだしさを表現するために「ケタ違い」と言うが、これほどケタの違いを実感できる例がほかにあるだろうか。数字が大きすぎて、同じ男としてうらましいと思うより、雲にかすむ富士の頂を見て圧倒されるような、自然への憧憬に近いものを感じる。

キワモノAVの撮影で、女優の大便を口にふくんで胃をこわし、病院の先生に「ヘンな細菌がいる。君はなにを食べたのかね」と問われ、正直に「うんこです」と答える。1日2本撮りで、午前中に女子高生役の女優を痴漢したかと思えば、午後には50歳の熟女を道端でレイプするという毎日の仕事。「女とセックスして金がもらえるなんて最高じゃねえか」と中学生のときに夢見るAV稼業の実際は、捨て身の肉体労働である。

「ぼくは作家になりたい。筆で身を立てるんだ」と言う色白メガネの量産型文系人間より、「チンコ1本で食っていく」と決めた男の覚悟、これが刀一本で世を渡り歩いた武士の道ではなくて何なのだろう(AV男優になるための参考図書: 新渡戸稲造『武士道』岩波文庫)。

 

ここでレキシの「きらきら武士 feat. Deyonna」という楽曲を思い出されたい。

pussyと武士との関連性はすでにこの曲で指摘済みだ。

 

本題は、週刊文春の記者のカバンの中身である。

記者は、取材用のノート、テープレコーダーのほかに、内田百閒の『百鬼園随筆』(新潮文庫) を持ち歩く。「日本語が洗練されている」という理由で愛読書とし、つねに携帯しているのだ。ゴシップ週刊誌の記者が、100年前の文人にならって文筆活動を行うとは意外である。「人の醜聞を扱う週刊誌だから、どうせその言葉づかいも下品下劣下衆の極み。美的な洗練とは程遠い」という予想に反して、その精神は遥か高みにある。週刊誌の読者ではないので、実際はわからないが…。

百鬼園随筆』を読み返すと発見があった。たとえば盲人は読書ができる。点字を勉強すれば、真っ暗な寝室のベッドに入って、布団のなかで点字本を開き、表面をゆびでなぞるだけで本が読める。そんな記述がある。冬場、布団から指先をちょこっと出して、しのびよる寒さと、腕のだるさと闘いながら本を読んだことがある人なら、目をつむったまま、まるで眠るように読書できることを羨ましく思うのではないか。「古典の条件は、なんど読み返しても、その都度発見があることだ」と言うが、その意味で百閒の随筆はまぎれもない古典である。

その古典的価値は認めるが、わざわざ持ち歩きたいかと聞かれたら話は違ってくる。ぼくの場合、携帯書は「サクッと感があるどうか」で決まる。移動中のわずかな時間、集中力の乱れる空間で、難しいことを難しい書き方でこねくりまわす本を読むと、文字列を目でなぞるだけでその意味が頭に入ってこない。そんな悲しい脳みその構造上、持ち運ぶ本は、パッと開いてすぐにおもしろい、ファストフード的な読み物に限定される。

サブカル系ライターのエッセイは最適だ。学問的な裏付けのない、テンションを煽るだけのバカみたいな自己啓発書も実にたのもしい。内容が小出しで、文章が細切れなら、詩集はどうかしらと考える人もいるかもしれないが、詩集ほど事前のムードづくりが大事なものはない。

いい映画は、劇場のスクリーンで観たいが、くだらない作品はスマホサイズのディスプレイで視聴してもなんら問題ないのと同様に、いい本は落ち着いたところでじっくり読みたいものだ。

いちばんの環境は風呂場だ。お湯のなかに本を落としたら一発アウトという状況と、のぼせるまでの明確なタイムリミットの存在が、読書に色を添える。不思議なことに、机で読むより内容がスイスイと頭に入って、記憶にも残りやすい。だから、とっつきにくい本(宗教・哲学系のなんかすごく抽象的なやつ)を持ち込むと、濃密な読書経験が得られるうえに、風呂上がりは古代ギリシャの賢者になったつもりで身体にバスタオルを巻くこともできる。数学者アルキメデスは入浴中に上昇する水位をみて物体の体積を測る方法を見つけ「エウレカ(見つけた)!」と叫んだ。この例が示すとおり風呂場は発見の泉である。そこで古典的名著を手にすれば、発見効果が倍増して、まるで3歳児向けの間違い探しのように、エウレカが止まらなくなること請け合いである。風呂場に本棚が置けないことは残念だ。こういうとき、ふだんは見向きもしない電子書籍が魅力的にうつる。

 

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