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おならっぷばーん

なにも考えずに、楽しむ

デートをドタキャンされた男の叫び

つっこみと言えば、もっと心の底から「なんでやねん」と叫びたい、いやむしろむせび泣きたい事態が起こったのでした。のん気におもしろ画像を掲載している場合ではなかったのです。

前に、ボランティアで出会った女性と美術館デートの約束をしたと報告しましたが、

これが見事に、いや案の定というべきか、「急な発熱」のせいでドタキャンされてしまいました。

こちらはデート一週間前から、たるんだお腹を引き締めるために慣れない腹筋で腰を痛めたり、ふだんは絶対手にしないメンズファッション雑誌に目を通して、イケメンモデルと自分との距離がただの布きれの組み合わせではカバーできないことに気づき絶望したり、デート先の美術館で展示される作品と作者について調べ上げ、あたかも絵画がわかる男、すなわち家柄が良く、音楽からテーブル作法まで一通りの文化的教育をうけて育った人間であるかのごとく振る舞おうとして書店をハシゴし解説書を買い漁ったり、いつもは洗わない身体を洗ったり、めったに洗わない衣服を洗ったり、鼻毛を抜いたり、足の爪に溜まった垢のかたまりをつまようじでとり払ったり、穴のあいた靴をすてて新しいものを買いに行ったり、iPhoneのカメラロールに保存された10の24乗にわたる天文学的枚数のエロ画像を消去したり、いろいろと準備を進めていたにもかかわらず、たった10文字程度のLINEメッセージでもって、ふっと机上のわたぼこりを吹くような軽さで、すべてを消し飛ばしてしまった。

ぼくは性格のおだやかさをもって唯一の長所とする人間ですが、さすがにこのときばかりは「この××め、まるで息をするように嘘をつきやがる。その『急な発熱』とやらをこの目で見てみたいね。きっとお前はその『急な発熱』といっしょに女友達とカラオケにいったり、男と手をつないで『なんだか暑くなってきたわ』とおもむろに上着を脱ぎ、鎖骨のくぼみに溜めた女の蒸気をふっと匂わせるのが得意なのさ」と叫ぶのでした。

そんな作業員の愚痴をよそに、「急な発熱」は額面どおり受け取られて梱包センターへと運ばれ、「気づかい」の木箱に包まれてのち「えっ、大丈夫ですか?ゆっくり休んでください」というメッセージカードを添えて出荷されるのでした。

ほんとうは残念で残念でたまりませんが、ことばにして伝えなかった。こちらにしてみれば、隕石衝突を一週間後にひかえた地球で急きょ開かれた世界196ヵ国による緊急会議に匹敵するような重要事項であったにもかかわらず、向こうにすれば、切らした卵を近所のスーパーに買いに行く程度の予定だったわけですから、また明日買いに行けばいいものをしきりに「残念だ残念だ」と言うと、いかにもみじめな男の泣きごとのようです。

数年ぶりに会う同窓生のひとりが同じように「発熱と腹痛」で食事会を欠席しましたが、彼にはまったく腹が立たず、嘘つきだとも疑わなかった。それを思えば、じぶんが今回どれほど彼女と会うのを楽しみにしていたのかわかります。

ごっそり空いたスケジュールは書店めぐりで埋めましたが、「本来なら今ごろは」と考えると落ち着いて本なんか選んでいられず、ふだんなら絶対に読まない本を手にしてレジに並んでいました。

 

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ジェーン・スー『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎文庫)


エッセイ賞を受賞したおもしろい本だから」という表向きの購入動機はあるでしょうが、結局は女心を理解したいと思ったのです。ところが残念ながら本書は「女子であること」に倦んだ女を理解する本であって、急に発熱した彼女のような――キティちゃんグッズで武装した全身ピンクのきゃぴきゃぴ女子の頭のなかをのぞき込むような本ではありませんでした。

たとえば、著者はこんなことを言う。

ピンクに記号的な可愛さを託し、周囲にシナを作る女はいまだに苦手です。しかし、それはピンクが悪いからではない。ピンクをテコに、可愛さで人より得をしたり楽をしたりしようとする、その女の浅ましさが苦手なだけです。(p.102)」

本書で排撃されるのは、まさにそのような男性ウケする女子力を如才なく身につけた「勝ち組」の女性たちです。ぼくがこの本を買ったのは、紙面にみなぎる女子への敵意と、急な発熱でドタキャンした彼女へのイラ立ちを重ね合わせて、著者のことばのつるぎを借りてこころのわだかまりを切り裂きたいからでした。

ぼくは今日、25歳の「女子」と神戸の街をめぐるのではなく、42歳の未婚女性と手を取りあって「女子」という巨大幻想にむかってともに闘ったのです。

 

いや、そんなまとめで終わりたくありません。

デートの予定は飛びました。とはいえ、週1回はボランティアの活動現場で顔をあわせるのだから、彼女の「発熱」が「大病」へと発展せぬかぎり、関係は立ち消えるどころかしたたかに継続していくのです。こんな中途半端な状態では終われません。勝利にしろ玉砕にしろ、とにかく一度走りだしたからには、派手な終幕が必要であります。

また報告します。

 

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