蒸したタオルが蒸しタオルである

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床屋で気持ちよい瞬間というのは、いくつかある。首筋にクリームを塗られて、カミソリでぴちぴちと剃られているとき。温かいというより、熱いタオルで顔面を覆われたとき。そして身体に巻かれたケープの下で、専門のおじさんから陰部のマッサージを受けているときである。

床屋の店先でぐるぐる回っているサインポールは、むかし理髪師が外科医を兼ねた時代のなごりで、一般的に「赤は動脈、青は静脈、白は包帯」をあらわしていると言うが、これは完全な間違いで「赤は亀頭、青は静脈、白はスペルマ」を表現している。「床上手」とは、そういう意味である。

おじさんの優れたフィンガーテクニクスについて、こと細かに描写するのも良いが、いま机に向かってこれを書くのは午前7時だし、そんな朝っぱらからおじさんにチンコを握られる猥想たくましくしておきながら、外では何食わぬ顔で歩くのも恥ずかしいし、万が一にも通行人のなかにテレパスの才能をもった子どもがいて、人混みのなか「ママー、あの人、床屋のおじさんにチンチン触られたときの気持ちを想像してるよ」と言われ、あわてて「よく見るんだボウズ、おじさんじゃなくておばさんだ。おじさんとおばさんはある年齢に達すると、クロスオーヴァーするもんなんだよ」と妙な言い訳でその場をやり過ごすハメになるので、ここからは文科省の図書検定合格、映倫ではG指定の安全な話題「蒸しタオル」のはなしをする。

前に、目がかゆくて日中はがまんしても夜中に無意識にかきむしるから、皮膚がどんどん萎縮して、もともとウサギのフンほどの大きさだった目が、ぴったりアリのフンサイズまで小さくなったと報告した。あれから2ヵ月、いまだ症状は改善せず、そもそも眼科の医者から「ヘンですねえ」とヒトコト言われたきり、症状に関してなにも言及されなかったため、これが眼病であるのか、一時のアレルギー反応なのかも判断がつかず、占い師の助言によれば、前世でイジメたカエルの呪い――「見えます。爆竹をお尻の穴に仕込まれて、無残に死んでいったダルマガエルの死霊が」――かもしれず、もはや原因追求はあきらめて、対症療法に切り替えようと思ったところで、蒸しタオルの登場なのである。

蒸しタオルの作り方は、業務用の高温蒸気消毒器、通称スチーマーを購入する本格派あり、竹でつくった中華せいろでシューマイと一緒に蒸しあげる餃子の王将派あり、かと思えば炊飯器の蒸気口で仕上げるライス国務長官その人あり、女湯に忍び込み風呂場の蒸気をかき集める眼福派ありと、蒸しタオルの道もそれぞれ分かれるところであるが、わたしはもっとも安易かつ素人くさい電子レンジでチンするだけの方法をとる。これは他流派から「電電蒸し」「チンタオ」「コンビニ」との蔑称で呼ばれ、バカにされているけれども、一番手軽であり、なにより欲しいときに30秒で出来上がるのだから、この利便にかえてどんな汚名悪評も甘んじて受け入れねばならない。名を捨てて実を取るのも蒸し道である。

さて、寝る前に蒸しタオルを顔に当てると、目のかゆみこそ消えぬものの、目の下の黒ずみ、くまが薄くなった。今までさんざん冗談ばかり言ってきたけれど、これだけはマジである。1日に2,3回は注射してそうなヤク中顔から、陽気な大麻園の管理人に見えるくらいに印象が回復した。覚せい剤中毒の人間は、ラリった状態では眠くならないために、睡眠不足でどんどん目の周りにくまを作るので、日焼けサロンに通って顔全体を黒くしてカモフラージュする、という話を聞いたことがあるが、美容に悩むOLから、警察の職務質問におびえる常用者にも、わたしは蒸しタオル顔面健康法をおすすめする。あと、パソコンとか長時間やったあとに目をあたためると単純に超きもちええで。

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