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おならっぷばーん

なにも考えずに、楽しむ

前歯と奥歯のはなし

 

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前歯篇

すこし前の夜のこと、小腹が空いたので食パンを焼いて食べたら、前歯がずっぽり抜け落ちた。ぼくはもう驚かない。いままで何度も抜けてきた差し歯だからである。しかし、パンみたいに柔らかいものを食べて抜けたのはショックだった。むしろ、それまでどうやって持ちこたえていたのだ。

歯抜け顔は、たいへん情けない。情けないというか、バカっぽい。マンガにでてくるバカキャラは、笑うときまって前歯がないものだ。このイメージが頭にこびりついているせいか、鏡をみると、じぶんが1ケタの掛け算にもまごつく人間に見えてくる。ふだんの利口ぶった自己イメージが、ガラガラと音をたてて崩れていく。

その日ちょうど飲み会があったので、みんなを驚かしてやろうと、歯が抜けたことは仲間に告げずにマスクをして店に向かい、「おお風邪でもひいたのか?」と出迎える相手の前でガバッとマスクをとって、真ん中に黒々と大きな穴のあいた歯列を見せつけてやった。

仲間は腰を抜かして「なんだそれは」と叫ぶ。事情を説明すると、「てっきり酔っぱらって転んで折ったのかと思った。それにしても似合ってるな。治療しないほうがいいんじゃないか」と言われてしまった。しかも、こんな時にかぎって、結婚する友人のお祝いムービーを撮影する流れとなり、さすがにこの歯抜けづらが結婚式場の大スクリーンに流れてはまずいと思い、前歯を隠しながら引きつった笑顔で「お、おめでとう」と新郎新婦を祝福したのであった。

ぼくは近い将来また前歯を折るだろう。乳歯は、幼稚園児のときに滑り台からでんぐり返りして、コンクリ斜面にぶつけてへし折れた。永久歯は、小学生のときに、カギを結び付けたゴムバンドを口にくわえて遊んでいて、罰ゲームでみるゴムパッチンのように、勢いつけて返ってきた鍵の頭でバッチリ打ち砕いた。

バカには歯がない。その背後には、ぼくが証明するように、行動がいちいち愚かだから、しまいに前歯を折ってしまうという理屈がある。さて現在の差し歯はいかなる方法で撃墜されるのか。いくつになってもバカな行動で前歯を折るなら、大人になったいま「酔っぱらってコケる」がもっとも現実的にありそうな話である。

 

奥歯篇

ぼくは下あごのしっかりした縄文人タイプの輪郭で、はっきり言うとエラ張りのホームベース型であり、うっかり野球場のちかくを散歩すると、三塁ランナーに滑り込まれそうになる。そんなわけで上下左右、親知らずがあますところなく生えており、どれをとっても虫歯菌に侵されつつあるのである。

「ぜんぶ抜いてほしい」と頼むと、歯科医は青いマスクをはこはこさせて「それは大ごとですよ。とりあえず削って埋めて、なんかあったら抜きましょう」と言う。いずれひっこ抜く歯に、さんざん治療を重ねて診療代をせびりとろうという魂胆である。いいだろう、乗った。というより、抜かれるのが怖いんです。

「痛いですか?」と訊くのは良いが、口の奥まで器具を突っ込まれている身分では、「ㇴァ」としか答えらない。医者は「はい、わかりました」と言うが、なにをわかったというのだろう。

歯ぎしり対策のためにマウスピースを作ることになって、型をとったのだが、親知らずまでをカバーする型の土台がかなり大きく、のど奥まではみ出した樹脂のせいで、何度もえずきそうになった。こらえるために、できるだけ違うことを考えようと思い、まず浮かんだのが、女性の気持ちだった。男のあれを含むときはこのくらい苦しいのかもしれない。と思うと余計に気持ち悪くなって本日二度目の「ㇴァ」がでる。

 

みんな歯は大切にね!

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