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おならっぷばーん

なにも考えずに、楽しむ

目が消えてゆく

 

アレルギー性結膜炎と診断された。

「ヘンですねえ」と老医者は首をひねる。寝る前にかゆくなって、日中はそれほどでもないと告げると、ふつうは逆だと言う。体温が高くなると、かゆみも強くなるからである。そんなことより先生、まぶたを裏返しにしないでください。眼科にかかったのは20年ぶりだから、診療がいちいち怖かった。青いレーザーが網膜を走査するところなど、まるでSFスパイ映画である。

のん気なことは言っていられない。日を追うごとに目が小さくなっていく。注意しても寝る間に掻きむしるから、翌朝の顔がひどい。もともと二重だった一重まぶたが、だらしなく眼球にもたれかかる。下まぶたも赤く腫れて、ところどころ黒ずみ、いつか海外のマグショットでみたヤク中の男とそっくりだ。両目はさながら砂漠の水場である。せり上がる砂の山にいつ埋没するかと、こわごわしながら光っている。

学生時代、廊下の向こうからやってくる女子集団の密談を聞いた。

「ほら、みてみて」
「なに?」
「あの人すごく目が小さい」
「うわ、ほんとだ」
「ダメだね」
「うん笑っちゃう」

うすうす自分の事だと気付きながら、万一の可能性に賭けて四辺を見渡すと案の定、ひとりである。このとき女に「足が太い」「胸が小さい」と文句をつける残酷さがわかった。「中身を見て欲しい」と訴える130kgの女に共感できた。目が消えるとは冗談ではない。もとから人に笑われるぐらい小さい目が、さらに縮んでいるのだから恐ろしいのである。

アイマスクをしてもダメ、ベッド周りをいくら掃除しても、かゆみは止まらない。この調子でいけば、両目はやがて一本の線になり、ホクロと同じ点になって、最後には消えてしまう。失明するまえに第三の目、すなわちサードアイチャクラを開放せねばならない。第三の目を開きサードアイチャクラの覚醒に必要な事 なんだこれは?)

じつは人の眼球の大きさには大差がない。違うのは、眼球の露出面積である。だから芸能人は、目を大きくみせるために目頭や目尻を切開する。また眼球は成長しない。子どもの目が大きいのは、周りのパーツが小さく、そもそも顔が小さいことの対照効果である。だから反対に、顔が大きいと目が小さく見える。目が小さく見えると、ますます顔が大きく見える。そのため、両者のバランスを一度崩すと、目と顔はそれぞれ収縮と膨張の無限往還運動に入る。私の顔はいま、軽自動車のタイヤくらいある。

 

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