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おならっぷばーん

なにも考えずに、楽しむ

ツーシーター

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大学で自動車部に入った。自動車部だからクルマを運転するのだろうと思ったら大間違いである。私が入部してまずしたこと、それは校歌を歌うことだった。

グラウンドの端に立たされる。野球のダイヤモンドが2つ描けるぐらいの距離をへだてて、視線の先にミニチュア人形になった先輩の姿を見る。小中学校と違って、校歌などいちいち覚えちゃいない。さっき紙の上で必死に暗記したうろ覚えの歌詞をありったけの声量でなぞる。遠くのほうで先輩が腕を交差させて×をつくる。「やりなおし」の合図だ。後ろ手を組み、上半身をのけ反らせて、やけになって叫ぶ、わめく、怒鳴り散らす。また×印。歌詞が正確であっても、声量が充分であっても、合格はもらえない。それは体育会系運動部に受け継がれる、伝統的なしごきだった。

私は、2ヶ月もしないうちに音を上げて退部する。大好きなクルマの運転するために入ったのに、グリークラブでもこんなに歌わないぞと言うほど校歌斉唱ばかりしていたからだ。たしかに野球部の新入りも同じように声出しをする。しかし、鍛えたのどは、試合でチームを鼓舞する楽器に化ける。たいして自動車部では、どんな応援も、当の自動車の直管マフラーの爆音でかき消されて、届かない。しごきに耐えるなかで芽生えた仲間意識は、かならずチームプレーの強さとなって活かされる。不幸にもクルマにはハンドルが1つしか付いておらず、しぜん自動車競技は徹底した個人種目となる。私は最後まで理不尽のなかに理を見いだせなかった。

部長以下、全員集合の部室にて、退部の旨を申し出る。どうして、と訊く部員に、ダンスサークルに入りたい、と嘘をついた。学校一軟派なサークル名を挙げることで、この部活に根付いたうわべだけの体育会系スピリッツに向かって、つばを引っ掛けるような快感を覚えた。あっけにとられた部員を残して部室の扉を閉める。駐車場に散らばった工具類をまたぎ、うずたかく積もった古タイヤをすり抜け、錆びついたスクラップの山を超える。二度とこの道程を往復することはないと思うと、嬉しさで足が顫えた。

 

ドーナツ→ツーシーター→?

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