「おれ経営者になろうと思うねん」

いとこ(20歳男・高卒フリーター)が遊びにきた。

「兄ちゃん、おれ経営者になろうと思うねん。金持ちになって、いい車に乗るねん」
(お前にゃムリだ)とは思いながらも、
「えっ、すごいやん。頑張りや」と励ました。

経営を口にするのは彼だけではない。幼なじみ(25歳男・大学中退・派遣社員)も再三にわたって起業の夢を語る。二人とも、金持ちになるために会社を経営すればいいと思っている。でもそれって違くないか。

私は社長じゃない。経営学部を出たわけでもない。日経新聞には触れたこともない。就活で「ボキは取ったほうがいい」と噂が回ってきた時は、さっぱり意味がわからなかった。自分の財政すらまともに管理できず、明日の炊飯器が開くか開かぬかの瀬戸際で生活している。そんなファイナンスIQ45の男が、「経営は甘くないぞ」と口出しするのはヘンである。しかし、金持ちになりたいといって会社を立ち上げるのは、それ以上にヘンである。

会社というのは、ある事業をしようと思ったときに、それを実現するために必要な組織のかたちであって、その際、経営者が金持ちになるかどうかは関係ない。「いい車に乗りたい」なら会社を起こすより、盗んだほうが早い。「車をつかった事業がしたい」なら車を盗むより、会社を起こすべきだ。

そんな理屈をこねて、起業に燃える20歳の若者のチャレンジ精神をくじいて良いものか――と考えた末に、私は何も言わないことに決めた。でも兄さんは、君があやしいセミナーに参加するといって喜んでいる様子をみるとすごく心配ですよ。自分が何も助言できない立場であることが、ちょっと悔しいので、経営とは何かを知るべく、本を買って読み始めた。あの日聞いた「ボキ」のテキストを開くと、経営者の視点を学ぶための参考文献リストがある。その中からブックオフにあるだけ全部買ってきた。

先日、書店で初めて「経営」「MBA」のコーナーに足を踏み入れた。なにを読んでもさっぱり内容がつかめない。もっと初歩的なものはないか、とあたりを物色すると中小企業診断士の資格テキストが出てきた。これは使える。企業にかかわる事柄(経済学・経済政策から企業経営理論、運営管理、財務・会計にいたるまで)が広く浅く、そしてやさしく説かれている。会社の仕組みをざっと知りたいとき、これ以上の適材はない。いとこよ、「おれ学校卒業してから本なんか読んだことないわ」なんて言わずに、ちょっと読んでみれ。きみが思っているより厳しく、そして楽しい世界みたいだよ。

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