おならっぷばーん

真夜中の異臭さわぎ

なぜイーサン・ハントは女を抱かないのか? 『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』感想

 

ネタバレを含むので、未鑑賞の方はご注意ください。

 

ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』を観てきました。

公開前にも話題になっていた冒頭のスタント。これが凄かったです。映画の「つかみ」になるアクションシーンですが、ここで描かれるのは、飛行機に積み込まれた大量破壊兵器を回収するというミッションです。主人公ハントは、ターゲットの飛行機に近づくことはできましたが、機内に入ることができず、機体の側面にしがみついたまま、飛行機と一緒に離陸してしまいます。

機体についた定点カメラが、猛烈な風を受けるトム・クルーズをとらえます。あばれる髪の毛、引っ張られる顔のしわが鮮明に見えました。さっきまで地上にあったはずの滑走路と植え込みが、いまでは飛んでいる飛行機のうしろに背景として映っていることが衝撃的でした。ふだん飛行機に乗っている時、また外から眺めている時には気付きませんが、実際に飛行機が離陸する際には、かなりの角度をつけて飛んでいることが分かります。

このシーンは、映画が公開する前に、プロモーション映像としてYoutubeで流れていました。しかし、パソコンモニタではなくて劇場の大スクリーンで観ると、垂直落下の恐怖をじかに感じるほど迫力があります。イーサン・ハント、というか53歳のトム・クルーズの身体は大丈夫なのかと思わず心配になります。飛行機は時速数百キロという速度で空気を切り裂いて飛んでいるので、その風をもろに浴びるわけです。ふつうなら目を開けていられません。空気、エンジンの排気ガス、飛散するゴミ、砂。これらを受けても目を開けたまま演技ができるように、眼球全体を保護するコンタクトレンズをはめて撮影したそうです。トム・クルーズはこのシーンの撮影中、スタントが出来ると言ったことを後悔したと語っています。それだけに凄い映像です。これは気合が違います。高まったテンションそのままに、ミッション・インポッシブルでおなじみのオープニング、着火した導火線が火花を散らしながら、これから巻き起こる物語を走馬灯のように次々と浮かびあがらせる映像に叩きこまれた瞬間、気持ちの盛り上がりは最高頂に達します。

今ではCGで何でも作れてしまうので、どんなに凄いシーンを見ても、どうせ合成なんだろう? と思って白けてしまいます。いわゆる「スゴすぎてCGに見える」問題です。たとえば、M:i:2の冒頭、断崖絶壁をロッククライミングするシーンがありますが、あれは完全にブルーバックのスタジオで撮影したものとばかり思っていました(とくにトム・クルーズ本人が演技しているとはっきり分かる部分)。実際にユタ州国立公園で撮影されたものだと知って驚きました。つまり、現代のアクションシーンが迫力を持つためには、CGでないことが観客にわかるようにうまく撮影しないといけないのです。その点、今作の冒頭シーンは成功していました。カメラと飛ぶ機体、飛ばされるトム・クルーズの存在が確かにそこにあったというリアリティが感じられるからです。

鑑賞後、友達と「女優がきれいだった」という話で持ちきりになりました。あの子は十代だ、いや三十後半ではないか、と見る人によって予想年齢がばらけ、彼女のつかみどころのない美貌に翻弄されていました。

 

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レベッカファーガソンスウェーデン生まれの女優です。劇中にもスウェーデン語をあやつる場面があります。年齢は、1983年生まれの32歳。あるシーンでは未熟な少女に見え、別のところでは老け込んだ婦人にも見えて、とても不思議でした。

プールに入っていた彼女が、ざっぱーんと水しぶきをあげて登場するところをみた時、ボンドガールのお披露目シーンかよ! と思ってしまいました。なぜか『007 ダイ・アナザー・デイ』で海辺からあがってきたハル・ベリーの姿が重なったのです。実際に、映画の随所に007シリーズを思わせる仕掛けがあったそうです。たとえば駐車場にアストンマーティンDB5が停まっている。これは007シリーズの象徴的な車、いわゆるボンドカーです。最近でも『スカイフォール』に登場し、銃撃でめちゃくちゃに壊されていました。本作では、オペラ会場で演目が進行中に、敵との戦闘が始まりますが、それも『慰めの報酬』との類似性が指摘されています。敵の大ボスが着用している灰色のネルーコートは、007シリーズに登場する闇組織の親玉のトレードマークです。男前の凄腕スパイというだけで共通点があるのに、007を匂わす仕掛けをしているわけですが、ジェームス・ボンドとイーサン・ハントには決定的な違いがあります。それは、女を抱くかどうかです。帰りの車中でも、「なぜハントは女とキスすらしないのか?」という議論になりました。

ワーカホリック説。休むことなく任務をこなし続けます。一体いつ寝ているんだ? と思わせるモーレツ社員です。彼は仕事をしている時にしか人生の充足感が得られません。女と遊んだり、ワインを飲んでゆっくりしたりするよりも、銃を持った男達に追われたり、逆に追ったりしているほうが楽しいのです。不能(インポッシブル)説は、そうした仕事のし過ぎから来ています。毎日アドレナリンがどばどば出るような激しいアクションをこなしすぎて、もう女をつつくだけでは何も興奮できない身体になってしまったのです。ああ、なんて哀れな男なのでしょう!

私たちは劇場で彼の業務日誌を読んで感動を覚えるわけですから、この際ハントが機械のようで人間味がないというのは問題ではありません。次回の報告も期待しましょう。