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おならっぷばーん

なにも考えずに、楽しむ

「東京グラフィティ」のはなし

当てもなく買い物するのは難しい。ショッピング行動は男女で大きく異なる。男性はあらかじめ決めておいた商品を一直線に買って帰る。品物の場所が分からなくても、店員に尋ねたりせず、見つからなければそのまま帰ってしまうことが多い*1。この傾向はズバリ当てはまる。今日は目標を定めずに書店と図書館に行った。矛盾するようだが、頑張ってふらふらした。

雑誌『Tokyo graffiti』がおもしろかった。ヴィレッジ・ヴァンガードの店員さんがおすすめの本を選ぶ、という特集記事だ。ふだんは学生カップルのファッションチェックとか同棲してる人のお部屋探訪とか、うら淋しい人間の臓腑をえぐるような企画ばかりする雑誌である。それでも、じぶんには縁遠い「青春」の息づかいを追体験する興奮があるから、ついつい読んでしまう。しあわせの滝にしばらく頭を晒していると、仙界の境地が見えてくる。駅のホームでべたべたと口づけを交わす高校生を不意に見せられても、いまなら無心でいられるというむなしい自信がわく。熱病に罹らなかった人間は、こうしてワクチンを血管に放ち免疫を作っていく。

ダ・ヴィンチ』という本の雑誌がある。あれよりも、『Tokyo graffiti』の特集のほうが質・量ともに優れていた。レビューのために書かれたレビューじゃなくて、店員さんがほんとうにふだんから愛読している感じが伝わってくる。それに、ヴィレッジ・ヴァンガードで働くひとのとくべつな周波数がよく共鳴する。このお店は、学生のうちにアルバイトして就職したら辞める、みたいな「正規」ルートのうえにある書店というより、ちょっと傍流というか、常識的な価値観にとらわれない人が切り盛りしていくお店だという偏見を持っている。雑誌をみるかぎり、大きく外れていない。本の紹介者は、三十歳で彼女いない歴を同じくする人とか、死体のことが頭から離れない人とか、SNSのやりすぎでうつ病になった人とか、きわめて多彩である。書評家と文芸評論家の2色だけではとても描けない図像ができあがる。延長するモラトリアムを生きる人たちが、じぶんの問題を解決するヒントとして使った本には、どれも共通のふるえがある。同じ体質のぼくには、身の上話をないまぜにした彼らの紹介文がたいへん応えた。

最近、川上未映子という名前をよく見る。すごいと聞くが、まったく読んだことがない。いい機会だと思って書店に置いてある本にざっと目を通した。すごい文章を書く人だ。浮かんでは消えるつかみどころのないイメージの流れ。ことばの選び方も一々ひやっとさせられる。似たような文体でブログを書く人がたくさんいる不思議が解けた。彼女が母体になっていたのだ。帰りに寄った図書館で、作品をいろいろ物色した。書店で見たものと同じ人が書いたのかと疑うくらい、悪い意味でまともな文章ばかりで拍子抜けした。どうやら作品によってテイストがまるきり違っているようだ。

「文体は美しさを思想から得る。…思想を文体によって美しく飾ろうとしてはならない。(ショーペンハウエル)」というが、美しく飾るのだって良い。化粧した顔のほうが好きだったりしないか。

 


*1 パコ・アンダーヒル『なぜこの店で買ってしまうのか―ショッピングの科学』早川書房.

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