「先延ばし」のはなし

なんでも先延ばしにする癖がある。

ブログを書くのは大方夜になる。だらだらとテレビを点けている時間、ちょっとした空き時間に、さっとメモ帳をひらいて数行書きつけておくだけで随分と楽になるはずなのに、実際はこうして日付のかわる直前になってからコーヒーを3杯あおり、どうにでもなれという勢いで書き進めることになる。

学生時代から変わらない。レポートもテスト勉強も当日になってからじゃないとやる気が湧いてこなかった。それでも初めはうまくやり通せていたのだ。ところが「なんだできるじゃないか」と味をしめてから、サボタージュに拍車がかかり、いよいよ課題に穴をあけはじめる。コピー&ペーストの時間もとれずにレポートを落とし、テストは毎度白紙で「不可」がつく。こんなことをくりかえして最後は学生生活に留年という大穴を穿った。なんとか大学を出たあとも病は深まるばかりである。

期日ぎりぎりになるまで手をつけないというのは、ものの不出来に言いわけを用意することだ。一週間という期限が与えられると、やればやるだけものごとを無辺に突き詰めることができると錯覚する。だから締切までじっと待っておいて、いよいよ時間がないとなったときに、残り時間がさし示す作業範囲の限界に甘えるのである。

ものごとの延長は、完璧主義者に多い。遅筆で有名だった作家・井上ひさしは、お客様につまらないものを見せるわけにはいかないと言って劇の脚本を飛ばし、数千万円の賠償金を支払った。おなじ延期でも、こうしたアーチストの完璧主義と、臆病なナマケモノの妥協主義を一緒くたにして考えてはいけない。臆病なナマケモノは、じぶんの作品を悪く思われるのがイヤでたまらない一方で、毎日1%を積み上げていくような努力を嫌う。チャイムが鳴ったから仕方ないと言って60%のまま放り出しておくのが好きなのだ。「大丈夫、だれも自分を責めないだろう。だって時間がなかったのだから。」これが自分の不出来をなぐさめる常套句である。

人の延長ぐせに着目したユニークなWebサービスがある。期限内に自分の設定した目標を達成できなかった場合、クレジットカードから決めておいた額だけ自動的に慈善団体へと寄付金が送られるのだ。作業するのはイヤだ。でも、そのせいで金がなくなるのはもっとイヤだ、という人間のいやらしい性格をうまく利用したものである。もちろん出来てもいないのに「できた」と主張する嘘つきを大量にはぐくみもすれば、恵まれない子どもたちのほうがずっと大事じゃないか息巻く篤志家をたくさん輩出するサービスでもある。

ある心理学の自己啓発書に、おもしろい実験結果が載っていた。学生を調査したところ、ものごとを先延ばしする傾向のある人は、そうでない人にくらべて風邪やインフルエンザに罹りやすいというのだ*1。どうしても学校へ行きたくない日に「たのむ熱よでてくれ」と念じた思い出がありありとよみがえってくる。そんな時にかぎって身体はいつもより好調子だ。そして休めない日に風邪をひく。先延ばしはあらゆるトラブルのもとだ。

 


*1 サイコパスはなにも先延ばしすることなく、思い立ったらすぐに行動する。彼らの良い面を見習っていこう、という刺激的な本の一節から。Andy McNab, Kevin Dutton, The Good Psychopath's Guide to Success: How to Use Your Inner Psychopath to Get the Most Out of Life, Corgi.

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