「天然パーマには犯罪者か、いい人しかいない」

もともと癖毛で、雑誌でみるヘアスタイルを頭上に再現することなど、はなから無理だと諦めている。中学時代、ませた連中がワックスで髪をかためはじめた頃、うらやましく思った。俺もああすればモテるのだと早合点して小遣いをはたき、ドラッグストアでナカノの5番を手に入れて、べたべたに塗りたくった。鏡の中にあるのは、油まみれの焼きそばを頭にのせた男である。夏の浮浪者に同じものを見た気がすると、悲しくなってすぐに浴室に飛び込んだ。

天然パーマを頂く人の自然観は、直毛の人たちと違う。髪はその日の気温、湿度に応じていくらでも気まぐれにうねり、はね、ちぢみ、ひろがる。思春期にこの自然の暴力にさらされると、髪はじぶんのものであってじぶんのものでなくなり、介入して操作する対象だと思わなくなる。だから周囲が「つぎはこういう髪型にしようと思っているんだ」といって盛り上がるのを聞くと、そこに別世界の隔たりを感じるのである。まれにこの寂しさに耐えかねて、美容院に金を積みあげ、ストレートパーマなる文明の力を用いて、髪の流れに整然とした水路を築いてこれを制御しようとする無謀な輩があらわれる。本人は天然パーマと決別した気でいるが、硬直したファイバーの束を頭にのせて運んでいる東南アジア人にしか見えず、天パ組からは「裏切りものだ」と陰口をたたかれ、直毛組からは「もともと天パのくせに」と嘲りを受ける妙なスポットにはまり込んでしまう。ぼくはストレートパーマへのあこがれを心中に秘めながら、仲間の山口くん(短髪チリチリ系)と膝をつきあわせて、「天然パーマには犯罪者か、いい人しかいない。ぼくたちはいい人にちがいない」と励ましあった。白い歯をむきだして「そうだとも」とこたえる山口君は文房具をすべて万引きで揃える悪党だった。 

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