おならっぷばーん

You can't fart without changing the balance in the universe.

東横イン 朝食のエレジイ

f:id:gmor:20180813173245p:plain

大人なら泊まりがけで遊ぶとき贅沢するものである。僕は稼ぎの少ない半社会人、そこそこ良いホテルに泊まっても夕飯はコンビニ弁当のスパゲティというケチくさい家庭の教育が手伝って、東京へ出ても、ペニンシュラコンラッド、マンダリンオリエンタルとは無縁、東横インに泊まる。

貧乏旅なら野宿かネカフェ、海外のバックパッカーみたいにユースホステルを使うという向きもある。たしかに上野公園50万平方メートルを庭にするホームレスもいるし、ネカフェでは棚板へシャンプー、リンス、ボディソープ、洗濯洗剤、芳香剤、靴にコートに備蓄のカップ麺を揃えた住人もいる。肥満した5才児ほどのリュックを背負い、長い脚と長い歩調で都市を歩む欧米人が、黒板にチョークでメニューを直書きしたカフェ併設のおしゃれなホステルへ消えていく。一夜を明かすなら場所を選ばない街で、ビジネスホテルに泊まるのは、シーツの白さ、Wi-Fiの強さ、オバケの少なさからというより他人との交渉を嫌ってだ。ドミトリーで見ず知らずの大男と二段ベッドの上下を賭けて争わねばならぬと思うと、寝るまえからすでに悪夢の始まりである。

エレベーターからにおう。食べものの香りがする。香りが混ざってトータルでくさい。個々人の汗とタバコと柔軟剤と香水が冷暖房にブレンドされてものの見事に大便臭かおる満員電車と同じである。そう、大便のにおいだ。あらゆる食物がいずれ大便となるのだから、イチゴのショートケーキもクリームブリュレもジュレ・ア・ラ・コンフィチュールもすでに大便のにおいを内包しているとみて間違いない。朝、階下へ降りるエレベーターにごはんの未来がにおっている。

午前7時〜9時半まで朝食バイキングがある。ラグジュアリーホテルみたいに白いクロスを敷いたテーブルの上へナプキンが立つのではない。おぼん2枚を置けるだけの簡素な机が、横とすき間なくつけられる。イスを引くと背面に人が行き来できない間隔でフロアぎりぎりまで敷き詰められる。

着色料あざやかなピンク、イエロー、グリーンのふりかけで目に迫るおにぎり、水っぽいマヨネーズで溺死するマカロニサラダ、ま紫の漬け物、かまぼこのような歯ごたえの玉子焼き、肥満した5才男児の陰部を思わせる肌色ウインナー、手入れ不足の女の恥丘を思わせるヒジキの和えもの、一口大のクロワッサン、チョコパン、日によって熟年女性司会者の顔と首筋ほどに濃淡の差がでるみそ汁。すぐ横では早朝出発組がスーツケースをゴロゴロ引いて仕事、ディズニー、闇取引へ向かい、奥のトイレでは胃の刺激でもよおした男女がひっきりなしに排泄し、ランドリースペースでは洗濯機が震え、乾燥機の小窓にジジイのももひきが上下する。日本人、中国人、韓国人、台湾人、タイ人、フィリピン人、アメリカ人、カナダ人、イギリス人、フランス人、ドイツ人、目の色も髪色もバラバラ、背たけ肉づきもバラ、服の着こなし装い方もバラ、話すことばはバラバラ語。雑多な人びとが、肩を寄せ合い、眠気に負けじと目をこすりながら必死にタダ飯を食らっているところに感動するのである。これから何の接点も持たぬだろう人たちが、ただ東横インの朝飯を共にしているという安っぽい一期一会をはかなむのである。食後、くさいエレベーターで部屋に戻る。チェックアウトの時間まで軽く二度寝すると、もう誰の顔も思い出せない。