おならっぷばーん

You can't fart without changing the balance in the universe.

100個も書けるか!最近1番ハードなアウトプットだった「好きなところ100」

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最低賃金で働くフリーターの窮状を知ってか知らずか、「もうすぐわたしの誕生日だけどプレゼントはいらないから手紙とかバースデーカードが欲しい。今までそういうの1回もくれたことないよね。家にいても、ああこの人はわたしのことを思ってくれてるんだなあって気持ちの証明がひとつもないのは寂しい」とわりと本気のトーンで言われたので、好きだという気持ちがこれでもかと伝わる「好きなところ100」を贈ることにした。

100個もない。恋人に限らず、好きなものに100の理由があるだろうか。サルトルの"Existence precedes essence."(存在は本質に先立つ)を踏めば、好きは理由に先立つのである。理由づけは頭のはたらきであって、心のはたらきではない。シュワルツネッガーが好きだ。理由はない。身体が凄くて、映画のなかでめっちゃ活躍する、これだけである。むしろ嫌いな部分が挙がる。すきっ歯とか、黒人のおばさんメイドを妊娠させるとか、政治家になってからスピーチで「私はつねに成功を考えて行動してきた。そのために1分1秒と無駄にしたことはない」と成功論を語るが、ソファに寝転がってうつろな目で紙巻きのマリファナをぷかぷかやって時間をむだにする古い映像があったりするところなどが嫌だ。いや、魅力でもある。岡本太郎に言わせれば、汚いと美しいは両立するのだから、嫌いと好きも相成り立つ。『コマンドー』は爆発だ!

 

芸術の場合、「きれい」と「美」とは厳格に区別しなければならない。「あら、きれいねえ」と言われるような絵は、相対的価値しかもっていない。
岡本太郎『自分の中に毒を持て』p.180

 

恋愛の場合、「好き」と「愛」とは区別しなければならない。「あら、好きだわ」と言われるような人は、相対的価値しかもっていない。好きなところを書きだす前に、「俺のどういうところが好き?」と訊いたら、あごに手を当てしばらくの沈黙ののち、「車の運転がうまいとことか?」と疑問形で返された。だったらレーサーと付き合えばいいのだ、とむかむかしたが、漠とした気持ちをことばにするとき(ある人に抱くユニークな気持ちを、個物-普遍の定義式で、一般的な概念をつかって述定するとき)、好意がありふれた条件に解体されてしまうのは、いたしかたないと知る。物件の良さが築年数、立地、家賃で決まるように、人間は年齢、職業、収入…とつづく各変数の総和で表現されるのだ。

10個もひと苦労なのに、その10×10である。夕食後の腹ごなしにチョチョっとペンを動かすだけで取りくみ切れる相手ではない。ブログを下書きする時のように、きわめて事務的に片付けないと終わらないと思った。アイデア出しは1日25分集中して6日間、100個の記入に1.5時間をかけた1週間の大事業であった。(サプライズのために「一緒にしたいこと100」も同時進行していたので、作業時間は倍。セックス以外に書くことがなく、実はこっちのほうがつらい。)

 

 

これには、

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『おてつだいカード』なるヒント集が同封されている。カードに従い「髪型」「笑い方」「頼れるところ」とバカ正直に書いていけば、恐れていた空白が埋まるという仕組みだ。このお助けアイテムを発案した商品開発部の人間を僕は神と呼ぶことにした。恩人を無下に扱えないのと同じで、捨てずに手元に置いてある。人助けはいいものだ。僕も誰かのおてつだいカードになれるように頑張りたいと思った。

 

終わりよければ全てよし。ネロとパトラッシュが逝けば途中がどうあれ感動である。100枚目の最後のカードに、今まで列挙したものなんか関係ないんだよ、君の存在が丸ごと好きなんだ、という意味を込めて「全部」と書き込み、彼女の涙を誘うことに成功したが、事件はここからであった。相手がお返しとして思うのは当然「好きなところ100」のやり返しである。「今、わたしも書いてるんだけど」と容赦なく批評が始まった。

「下書きが2時間もしないで終わったんだけど、すごい苦労して何日もかけたって言ってなかったっけ? まあいいんだけど。それにしても100個目の『全部』はずるいよね、いかにも思いつくって感じだし、わたしは同じことできないじゃん。だから違うこと書いたけどね。流れとか考えた? 出す順番ってほんと大事だと思うな。あと『おてつだいカード』っていうの入ってたけど、あんたあれ見すぎじゃない? わたしはあんなの見ずに書いたけどね、まあそんなとこかな」

これから好きなところ100を書く男子諸君、私の失敗をおてつだいカードとして生かしてくれたまえ。モノより気持ち。気持ちより技巧である。

 

【食評】黒フー

 

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食べものに興味がない。1日の栄養がとれる錠剤と、普通の3食があれば、僕は迷わずクスリを選ぶ。半熟たまごのハンバーグ。ナイフで突いたら粘着性の黄身の滝、とけたチーズが肉の岩肌からしみ出て、肉汁がクリームの三角州に虹色の石をばら撒く。そんなランチセットの接写に感動はない。石膏像の造形をもつ男、絵画の完成を誇る女が、飼いならしたピンクのヘビを壺口から出して遊ばせる。そんなハリウッドのキスシーンを見せられたゲイと、相似形のしらけムード。

 

 

 

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グルメ不感症の僕も、スーパーのバイトで百種の食品を並べるうちに、好奇心が出た。レビューが記事になるなら、およそ食品の数だけ、つまり無限にブログ更新できることに気付いた。ことばにならない味をあえて文字にする試みも楽しい(音楽もことばにできない。ベースが誰とかリズムがどうと説くのは分るが、洗練されたバイブレーションとかピュアな演奏って一体なんなん。その質感(クオリア)って共有できるのかな)。食事評のささやかな楽しみとして、どこかで大便のたとえをすると決めている。好物のカレー、コーヒー、チョコ、焼きそば、すべて茶色である。ブリの照り焼きもほほ肉の赤ワインプレゼも、みんなうんこの素なのだから、切り出した大理石にミケランジェロダヴィデの肉体を見るように、あらゆる食品のなかへうんこの影を認めるのにどんな異論があるだろう。黒糖フークレエについては、もう何も言わなくても分るはずだ。

 

 

 

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爪を立てると張り裂けそうな膨満感。握りつぶしたい。かわいらしくて、無力で、はかない存在を、手でぐしゃぐしゃに壊してしまいたい。
「パン並べてたら、ぎゅってやりたくならん?」
先輩の女性社員に訊かれて、
「なりませんよー」
と答えたが、あれは嘘であった。「私はなるけどなあ」と笑う女の冗談の先に虐待死の発展を見る。ソーセージパンは20個入荷しても、フークレエは2個しか来ない。開店直後に1つ買って帰るので、地域住民は残り1つをかけて争うことになるわけだ。実は誰も欲しがってなかったりして。

 

 

 

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素のまま抱えて帰る。遠目には革財布だ。軍手や雨ガッパと一緒にメットインに放り込んで家まで走るが、生春巻きより薄いビニールが途中で破けはしまいかとハラハラする。

 

 

 

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カマキリの背中のにおいがする。プルーストの『失われた時を求めて』では、マドレーヌの香りが語り手の記憶を呼びさます。車のフレグランスが乗り物酔いを再現し、ボディミストの薬品臭が化粧おわりの彼女の顔を描き出す。においと記憶とは仲の良い親戚だ。フークレエを嗅いでも、黒糖にまつわる思い出なんてひとつもない。それでもシンナーを吸うように鼻につけて袋を上下すると、退行催眠で前世の記憶が甦るように、さとうきびプランテーションでの奴隷労働が懐かしかった。

 

 

 

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フークレエには小分けのスリットが入っている。これをビニール越しに、ねちねち剥がすとき、ゴム手袋で食器の汚れを落とすときの、皮一枚隔てた疑似接触のエロスが立ち上がる。土まみれの野菜を見るより、医療器具を置くような白いトレイに、ビニールではりつけにされた野菜(まるでダミアン・ハーストの、水槽に生きたまま固定されたかにみえる動物(の死骸)のようなプロダクト)が、最高度の効率と、最高度の規格で売り場を完成するとき、美しさに打たれる。

 

 

 

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ソムリエ修行では、ワインを表現するのに香ばしいとか日光の降り注いだなんてありきたりの形容は避け、焦げたテニスボール、古い絵画、なじんだ革製品といった、ワインと無関係の連想を持ち出して味の立体化を試みる。それでいくとフークレエは、ナッツ、花火、スパイスカレー、水泳、ようかん、靴の中敷きである。要するに、これは言いにくいことだが、うまくもまずくもない。1品で1日の栄養が摂れるなら、僕は迷わず、きっちり3食食べることにする。空腹を満たすためだけにモゾモゾやっていると、暗黒未来の配給食料を食べている気になる(『スノーピアサー』で下層民に配られる黒いプロテインバーの正体は、ゴキブリであった)。

 

 

 

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消費期限との闘いは始まったばかり。
次回作にご期待下さい!